後編
[1/8]
[8]前話 前書き [1]次 最後
まずはビルの最上階にある映画館でチケットを購入。
新宿でも特にスクリーンの多い映画館だったが、マイナーな作品で三週目、しかもレイトショーとあって、その中では一番小さい劇場だった。それでも席はガラガラだったので、中央のいい位置に場所を確保することができた。
映画館の下のフロアは食堂階となっている。
無達のくれた30%割引券対象のイタリアンレストランは、少し高そうな洒落た店だった。時間が早いこともあり、うまい具合に窓際の席に座れた。ここは窓から見える夜景が素晴らしい。街の明かりが星の海のようだ。実にいいムードだ。
行きの電車では彼との時間をつぶされて恨めしく思っていたのだが、こうなってくると現金なもので、感謝の気持ちでいっぱいになる。
ギャングのような強面でもさすがに僧侶。誠にありがたい。
「夜景、きれいだね。なんだかすごい贅沢な感じ。」
ゆかり は上機嫌でそう言った。
食事にはパスタとサラダ頼む。大人ならここでワインでも注文するところだろう。
ここでなら普段できないようなしんみりした話もできそうだし、もしかすると彼の方から何か心躍るようなことを言ってもらえるかもしれない。
そんなことを考えながら、一人で期待と緊張感を募らせていると、唐突に「あら、あんたこんなとこで何してるのよ。」と甲高い声で呼びかけられた。
驚いて見上げると、どこかで見たことのあるような、やせたスーツ姿の中年の男が目の前に立っている。手に紙袋をいくつも抱えていたが、それを床に下ろすと周囲に気を配る様子もなく、さらに声を張り上げた。
「可愛い女の子なんか連れちゃって、色気づいてんじゃないわよ。高校生がこんな店で夜景を見ながらムード作ろうなんて10年早いわ。」
そのけたたましい喋り方で気づいた。テレビの通販番組「時価ネットたなか」で人気の田中社長だ。
しかし、なぜそんな有名人が自分達に声をかけてくるのかさっぱりわからない。
ゆかり はまたしても驚きのあまり言葉を失い、ただ状況を見ていることしかできなかった。
一方、彼は全く動じずに、苦笑しながら答えた。
「上の階に映画を観に来ただけです。」
「本当? 観終わったのなら、女の子くどいてないでとっとと帰んなさいよ。」
「まだ来たばかりですよ。これから観るんです。」
テレビの有名人と平然と会話する彼に、ゆかりは目を丸くする。
周囲の人も田中社長に気づいたらしく、視線が集まりざわついていた。
「社長こそどうしたんです。こんなところで。」
「そんなの仕事に決まってるでしょ。あんた達みたいにデートにかまけてるヒマな学生とは違うの。」
周りの視線などお構いなしに、社長は大げさな身振りと表情で話し続けた。
「今日は朝から下の特設フロアで実演販売をやってたの。それはもう忙しくて、1日中、食事する暇も無いくらいだったん
[8]前話 前書き [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ