揺籃編
第六話 パランティア星域の遭遇戦(中)
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ウィンチェスター
どれだけ原作を知っていてもなあ…。
作中『イゼルローン回廊付近では常に遭遇戦が行われており』なんて数行で終わってしまうような戦いなぞ分かるわけがない。俺だってアニメで言ったら『同盟軍下士官A』なんだ。
出番すらあるかどうかのモブ中のモブなんだ。しかも味方は百五十、敵は二百四十、負けフラグ、死亡フラグ立ちまくりだ。つまり自分の才覚でどうにかしなきゃいけないわけだが、いち乗組員という立場じゃなあ…。死んでもまた都合よく転生してくれるかなあ。
『こちらは副長だ。各科とも現配備のまま適宜休息を取るように。以上』
ファーブルちゃん、コーヒー頼む…。
「おい、ウィンチェスター。君の同期の言っていた事はどうやら本当のようだ」
ガットマン中尉が戻ってきた。目には諦めの色がある。
「おい坊や、手前が余計な事言うから本当に援軍が来なくなっちまったじゃねえか」
「そうそう。コトダマという存在を新人君は知らないようですよ、兵曹長」
…ねえねえエアーズさん、言霊とかそんなオカルティックな事を信じているの?地球教なの?
「俺が司令だったらなあ…」
ガットマン中尉が遠い目をした。
「はは、主任がもし司令だったならどうしやす?」
バーンズ曹長が笑いながら尋ねている。
「うーん。退くね、絶対。勝てない戦はしない主義なんだ」
「…だから中尉のまま、って訳ですかい。納得納得」
オイ、と中尉がバーンズ曹長の脇腹を小突く。…いいなあ、ベテラン下士官と士官の和気藹々の会話。これぞ軍隊、だな。
でも待てよ?勝てないんだろうか?
「主任、うちの艦隊って、どういう構成なんです?」
「お?お前も分艦隊司令やってみるか?…戦艦六十、巡航艦五十、駆逐艦三十、空母が十であります、ウィンチェスター司令」
「止めてくださいよ…でも、戦艦が多くないですか?」
「うちは哨戒専門の独立愚連隊みたいなもんだからな。全体の定数は変わってないが、哨戒グループで小分けに出撃することが多いから、少しでも打たれ強い方がいいだろうって戦艦の比率を上げてくれたのさ。俺なら巡航艦を増やすがね」
独立愚連隊とかウン十年ぶりに聞いたな…。そんな事どうでもいい、戦艦戦力は敵より上…。打たれ強く…。
「ここはお話が弾んでいるようね。周りはお通夜だというのに。オジさまも何考えてるのかしら、増援無しだなんて」
カヴァッリ中尉だ。笑い声につられたのか、第1艦橋から様子を見に来たらしい。
オジさま…。カヴァッリ中尉…。そうだ!閃いた!
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