第十二章
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「わかるわ」
「それはまた」
「だから貴方に大した用はないわ」
「じゃあどうするのかな」
「殺しはしないわ」
紗耶香はそれはないとした。
「命を奪うことは魔術の真髄ではないから」
「それでなんだ」
「そうよ、私自身命を積極的に奪う趣味はないわ」
紗耶香自身もというのだ。
「これといってね」
「ふうん、人道的なのかな」
「それは違うわ、趣味ではないだけよ」
人道、よく出て来る言葉は紗耶香は否定した。
「それだけのことよ」
「別に違うんだね」
「そうよ、私はあくまで魔術師。魔術師は魔術を自分や他の人の為に使うもので命を弄ぶものではないわ」
「それで君は魔術を使ってなんだ」
「生きているわ、けれど決して弄ぶことはしないわ」
その魔術を使ってというのだ。
「何があってもね」
「それでなんだ」
「貴方の命も奪わないわ、むしろ解き放ってあげるわ」
「僕を何からかな」
「貴方を操っている誰かからね」
こう言ってだった、紗耶香は今度は。
左手の平の上に出していた黒い球を男に向けて放った、男はその球も操られているかの様な動きでかわしたが。
紗耶香は自分の動きをかわした男に対してさらにだった。
右手から氷の矢を幾つも放った、それで自分の攻撃をかわした男に対して追い打ちを仕掛けた。その矢達に対して。
男は左手の指の先から出した鋼の如き糸を放ちそれで貫いて潰した、そうしつつ矢を放ったばかりの紗耶香に糸を向かわせるが。
紗耶香はその動きを読んでいた、男の指が向けられた先からもうそれは一目瞭然だった。それでだった。
紗耶香は今度は念じた、そうして。
己の前に障壁を出した、しかも只の障壁ではなく。
ダイヤの、炭素の結晶をそうさせた障壁を出した、この世で最も硬い障壁をしかも分厚く出した為に。糸達も少し突き刺さってもそこから動かなくなった、これによってだった。
男の糸の動きを止めた、そこから即座にだった。
紗耶香は糸の動きを止められ自分の動きも止めた男に対して右手を左から右、右から左に一閃させて風の刃を放ってだった。
男の胸を切った、しかし切ったのは男自身ではなく。
別の何かを切った、すると男は急に全ての力を失ったかの様にその場に倒れ込んで動かなくなった、それと共に。
紗耶香は障壁を消しそのうえで男に近寄って言った。
「糸を心臓に置けばおのずと身体を操れる。恐ろしい魔術ね」
こう言ってだった、今度は男の脳裏に手をやった。そうしてから紗耶香は携帯を取り出し男を救急車で行き倒れとして救助してもらいその場を後にした。
その夜紗耶香は銀座のあのバーに赴き警視庁から来たあの男岩本という彼と会った。そうして今日のことを話した。
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