第二章
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「全くね、けれどあるとね」
「嫌なものですね」
「それだけで」
「だからないに越したことはない」
「そうなのですね」
「そうよ、異端審問なんてものはね」
美女はさらに話した。
「人間の愚かさがこれ以上ないまでに出た」
「そうした代物ですね」
「まさに」
「多くの無実の人を惨たらしく殺してきた」
「忌まわしいものですね」
「そうよ、日本にああしたものがなくて今もないことはいいことよ」
美女は微笑みこうも言った。
「本当にね。そしてその今の日本でね」
「ご主人様は生きておられますね」
「魔術師として」
「その様にされていますね」
「そういうことよ、あと貴女達は皆高校を卒業したから特に何時までに帰らなければならないということはないけれど」
それでもとだ、美女は今度は少女達に話した。
「夜は危険な時間よ、だからね」
「出来るだけ早くですね」
「早くお家に帰ってですね」
「休みなさい、戸締りを厳重にしてね」
そのうえでというのだ。
「自分達の世界に狼が入らない様にして」
「休む」
「今日もですね」
「そうしなさい、あと私はまた暫くお店に出られないわ」
美女は少女達に今度はこう言った。
「だからね」
「はい、ご主人様がおられない間は」
「これまで通りですね」
「私達が切り盛りしていく」
「そうしていけばいいですね」
「そうよ、彼女もいるから」
美女はここである女性にも言及した。
「だからね」
「ご主人様がおられずとも」
「安心してですね」
「お店をやっていけばいいわ」
こう言ってだった、美女は少女達を店の仕事が全部終わるとそれぞれの家に帰らせてだった。
自分も店の戸締りをしてから店を後にした、そして夜の道玄坂を一人歩き。
何時の間にか、それこそ風が瞬く間に他の遠くの場所に行く様にしてだった。銀座のある昔ながらのバーに入り。
そこのカウンターでカクテルを一杯また一杯と飲んでいった。飲んでいるカクテルはホーセス=ネックにはじまりルシアン=カクテル、トム=コリンズ、ニコラシカと一杯ごとに種類を変えていきつつ飲んでいった、その彼女の隣にだった。
壮年の背は高いが痩せてライトグレーのスーツがよく似合う男が来た、男はカウンターに座るとジントニックを注文してから美女に尋ねた。
「松本沙耶香さんですね」
「岩本浩二さんね」
「はい」
男は美女、松本紗耶香の問いに即座に答えた。
「そうです」
「警視庁捜査一課の」
「以前何度かお会いしていますね」
「ええ、仕事の場でね」
「はい、それでなのですが」
「今回もなのね」
「それでお話に参りました」
男は今度は007マティーニを飲む沙耶香に答えた。
「裏の仕事のことで」
「お話を聞かせてくれるかしら」
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