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戦国異伝供書
第七十五話 逐一その十

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「越前を守る為にな」
「ですな、ではです」
「我等もです」
「殿と共に戦いまする」
「一向宗にも」
「頼むぞ、しかし妙なこともあってな」 
 宗滴は話す間にふとその顔を怪訝なものにもさせた、そうしてそのうえで家臣達にこんなことをも話した。
「本願寺の色は灰色じゃな」
「はい、あの寺はです」
「一向宗の旗は灰色です」
「全て灰色です」
「それがあの者達の一揆の旗です」
「一度おかしな旗を見た」
 一向一揆の中にというのだ。
「闇の色のな」
「闇?」
「闇ですか」
「その色の旗ですか」
「闇の」
「その色ですか」
「そうであった、しかし」
 宗滴は眉を顰めさせてさらに言った。
「そうした旗はあるか」
「一向宗に」
「そうした旗がですな」
「果たして」
「わしはこの歳にあるが見たことも聞いたこともない」
 一度もという言葉だった。
「これまであの者達と数多く戦ってきたが」
「はい、我等もです」
「そうした話はです」
「一度もありませぬし」
「見たこともありませぬ」
「一向宗の者達を捕えて聞きもしたが」
 当の彼等にもというのだ。
「しかしな」
「それでもですか」
「知らぬと」
「そう言っていましたか」
「うむ」
 そうだったというのだ。
「あの者達もな」
「左様ですか」
「何といいますか」
「おかしな話ですな」
「それも実に」
「妖しい話であります」
「坊主達にも効いたが」
 門徒達だけでなくというのだ。
「やはりな」
「知らなかった」
「そうですか」
「あの者達も」
「そうでしたか」
「一人として知らなかった」
 一向宗の者達はというのだ。
「闇の旗の門徒達等な」
「黒ならありますな」
「上杉家、即ち長尾家の色です」
「あの家の旗は黒です」
「鞍も具足もです」
「服も全てが黒ですが」
「闇の色ではない」
 上杉家はとだ、宗滴は答えた。
「決してな」
「それは確かです」
「上杉家の色は黒です」
「決して闇ではありませぬ」
「それ以前に一向宗の中に上杉家がいるなぞ」
 このこと自体がというのだ。
「絶対に有り得ぬことです」
「一向宗は上杉家とも犬猿の仲です」
「常に争っておりまする」
「それは代々のことです」 
 朝倉家と同じくだ、上杉家は長尾家であった頃から一向宗と常に争ってきている家であるのだ。朝倉家の者達もこのことがよくわかっていて今言うのだ。
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