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戦国異伝供書
第七十五話 逐一その八

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「それでじゃ」
「ここは、ですな」
「当家は出陣の動きはしても」
「それでもですな」
「浅井殿が勝たれるので」
「殿がその場合は動くなと言われているので」
「それでじゃ、我等は動かぬ。だが動いた方がな」
 宗滴の見るところだ。
「よい」
「当家にとっては」
「そのうえで浅井家に恩を売り」
「今後も動いていくべきですな」
「そう思うが」
 どうしてもというのだ。
「殿はその様に言われた」
「ならばですな」
「宗滴様としましては」
「殿のお言葉に従うしかない」
「左様ですな」
「殿のお言葉に従わねばじゃ」
 朝倉家の主である義景のそれにというのだ。
「誰の言葉に従うか」
「そうなりますな」
「若し殿のお言葉を聞かぬなら」
「朝倉家は成り立ちませぬな」
「それでは」
「最早」
「そこから越前は乱れる」
 この国はというのだ。
「だからじゃ」
「殿のお言葉を絶対とし」
「そしてですな」
「そのうえで」
「うむ、やっていく」
 是非にというのだ。
「これからもな」
「殿に献策は出来ますが」
「どうされるかは殿ですからな」
「殿がよしとしなければ」
「どういった献策も」
 それが幾らいいものでもというのだ。
「意味がないですな」
「流されるので」
「わしは主ではない」
 朝倉家のとだ、宗滴は苦い顔で言った。
「一門衆であってもな」
「その一門衆の筆頭でも」
「そのお立場でもですな」
「やはりご当主ではないので」
「決めることは出来ませぬな」
「決められるのはご当主じゃ」
 この立場にある者のみというのだ。
「それは絶対じゃ」
「左様ですな」
「今は一向宗は越後を向いていて」
「我等には来る気配はないですが」
「それでも殿としては」
「殿は常に一向宗を気にされておる」
 義景の観る目はそこにある、加賀を拠点としそこから越前のある北陸全体に強い勢力を持つ彼等がというのだ。
「それでじゃ」
「そのうえで、ですな」
「越前の兵は動かしたくないのですな」
「若し一向宗が動いた時に備えて」
「そうなのですな」
「それは一理ある」
 義景の考えもというのだ。
「当家がどれだけ一向宗に苦しめられたか」
「言葉では言い表せませぬ」
「何度恐ろしい数で一揆を起こしたか」
「奴等は死を恐れませぬし」
「しかも何度でも来ますので」
 つまり一揆を起こすというのだ。
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