前編
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「ベルベットルーム」の住人だ。
この部屋へは、ポロニアンモールの片隅にある、私にしか見えない扉から訪れることができる。
「この世界には、並行して無数の現実が存在しています。互いに認知できないまま、似ているようで異なる道を進んでいるのです。」
「パラレルワールドだよね。SFみたい。本当にあるんだ。」
テオドアは「はい」とうなずく。
「私が夢に見たのは別の並行世界っていうこと?」
「概ねその理解でよろしいかと。このベルベットルームは様々な現実とのつながりを持っています。そして夢はベルベットルームの入り口。夢を通じて他の現実を垣間見ることもあるでしょう。」
「私の代わりにあの前髪の男の子がいる現実もあって、同じようにタルタロスを探索してて、ベルベットルームにも来てるかもしれないんだね。」
「そうですね。こちらを訪れるお客人は、必ずしも同じ現実からいらっしゃるわけではありません。あるいはその方は私の姉が応対しているお客様であるかもしれません。」
彼がこの部屋に来ているかもしれない。
私は無性に彼に会ってみたくなった。
「その人と直接会うことはできないのかな?」
私が勢い込んで尋ねると、テオドアは少し困ったような表情を浮かべた。
「残念ながら、ベルベットルームでお客人同士が出会うことはありません。」
「そっかー。できれば話してみたかったんだけどな。」
私は肩を落とした。
そんな私をじっと見て、テオドアが言った。
「何をお話ししたかったのですか。」
私はまわりを見まわしながらちょっと考える。
さすがに今では見慣れたが、上昇し続けるエレベーターの中という奇抜な部屋。非現実なだけのことはある。その内装はテオドアの制服同様に青い。どこからかピアノの音と澄んだ歌声が聞こえている。今日、この部屋の主は不在のようだ。
「まあ、いろいろだね。自分とまったく同じ境遇にいる別人と話す機会なんて無いからさ。彼が何を感じて、何に悩んで、何を目指しているのか知りたかったんだ。
・・・私は、きっと自分が間違ってないか確認してみたいんだと思う。今いる自分でいいんだって。
あの人も同じなんじゃないかな。話したらきっといい友達になれると思うな。」
「あなたは何も間違ってなどいません。私はそう信じています。」
テオドアが優しい言葉をかけてくれる。
「運命に立ち向かう時、不安に感じることも多いでしょう。しかし人は自分自身で感じたこと、考えたことで道を定めるものです。自分で決めたことには責任は取る必要があるのですから。」
「ああ、それ前にも誰かに言われ・・・」
ふいに現実に戻る。人込みの喧騒が耳にあふれかえった。
「ねえ、大丈夫?」
「えっ」
青い世界がピンク色に変貌した。
ゆかりが少し眉をひそめてのぞき込んでいる。
「何 ぼーっとして
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