装者達のバレンタインデー
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でもかと言うほど桃色空間を展開していたという。
「弦十郎くん、はいこれ」
「おお、もうそんな季節か!」
了子からチョコを受け取る弦十郎。
二人の薬指には、銀色に輝く指輪が嵌められている。
そう。二人は今、婚約しているのだ。
フロンティア事変以降、激務に次ぐ激務で当分の間は挙式出来ないが、それでも二人の関係は確実に進展していた。
「ほう、チョコマカロンか。しかし、了子くんから手作りを貰えるとは。てっきり、いつもの洋菓子店の新作かと思っていたんだが、これは一本取られたな」
「いくらお高いとはいえ、そろそろ既製品も飽きて来た頃かな〜って思ったのよ。それに私達、もう婚約者よ?流石に私のプライドが許さないわ」
「フッ、君らしい理由だ。早速、食べてしまっても構わないだろうか?」
ええ、勿論。そう言おうとした了子の視界の隅に、彼女は映りこんだ。
「……その前にあの子達、ちょっと気にならない?」
「む?」
弦十郎は了子の指さす先を振り向く。
そこに居たのは……仕事帰りの緒川と、駆け寄る翼であった。
「緒川さんッ!」
「おや、翼さん。どうしました?」
「そ、その……お、お勤めご苦労様です!」
緒川にチョコを渡そうとしていた翼の心臓は、既に早鐘を打つようにバクバクと高鳴っていた。
(おおおおお落ち着け!そうだ、落ち着くのだ風鳴翼ッ!常在戦場ッ!常に戦場に身を置く者として、この程度の事に緊張など……!)
深呼吸と共に、高鳴る心臓を押さえ付ける。
息を整え、改めて緒川の顔を真っ直ぐに見据えた。
「緒川さん……その、こちらを……受け取って……くだちゃいッ!」
……噛んだ。
大事な所で噛んでしまった。
その事実だけで、翼のダメージは大きかった。
「心外千万ッ!」
「翼さん?翼さん!?」
廊下に座り込み、翼はガックリと項垂れる。
「こんな所で噛んでしまうなど……不覚ッ!」
「翼さん……大丈夫ですか?」
「も……もう一回!もう一回言い直させてくださいッ!」
(何だか、懐かしいなぁ……)
緒川は幼少期の翼を思い出していた。
その頃から翼は負けず嫌いで、緒川との将棋や七並べ、ババ抜きなどで負ける度に、同じ事を言っていたのだ。
『もーいっかい!もーいっかいやるの!』と、泣きそうになりながら。
(あの頃に比べると、翼さんも逞しくなりましたが……)
「受け取ってくでゃしゃ……受け取ってくりゃさッ……受け取って……にゃあああああッ!!」
(やっぱり、こういう所は変わっていませんね)
言い直す度に同じ所で噛み、遂に翼は頭を抱えて絶叫した。
「うぐっ……ひっく……」
「翼さん、無理しなくても……」
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