装者達のバレンタインデー
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肌寒い風が頬を撫でる。厚着に手袋、首にはマフラーまで巻いていても、染みる北風に身を震わせる。
明日は乙女の決戦日……そう、即ちバレンタインデー。
スーパーやデパート、各種洋菓子店では多種多様なチョコレートが並び、大勢の女性客が押しかけている。
ある者は友人に。ある者は同僚や先輩、後輩へ。ある者は大切な人に、日頃の感謝や愛を込めて。
そして、それ以上に多くの乙女達は……意中の相手に、胸の内の想いを伝える為に──。
「うう、緊張するなぁ……」
響はチョコレートの入った紙袋を手に呟く。
「な〜に言ってんだよ!昨日、あんだけ頑張ったんだ。心配する事なんて一つもねぇよ!」
「そうだぞ立花。お前の真心、込めた想いは必ず翔に伝わるはずだ。私が保証する」
クリスは響の肩を叩き、翼は反対側の肩に手を置いた。
「そこは信じているんですけど、でも、やっぱり恥ずかしいよぉ……。あげる側なんて初めてだもん……」
「それを言ったらわたしだって……男の人にチョコを渡すの、初めてだもん」
そう言ってはにかむのは、毎年響にチョコを渡し続けてきた未来だ。
そもそも装者の中に、バレンタインデーに異性へチョコを作って渡した経験のある者は見事に一人もいない。
一見余裕に見える翼やクリスも、内心では身悶えしそうな程の羞恥心を抑えている。
「うんうん、青春してるわね〜」
「私達も味見してるし、きっと大丈夫よ。後は渡して、食べてもらうだけなんだから、肩の力は抜いた方がいいわ」
「そうそう。こっちがガチガチだと、渡す相手も気にしちまうだろ?リラックスだぞ」
集まっているのは少女達だけではない。
了子、友里、そして奏の三人も、それぞれの渡したい相手へと贈る菓子の包みを手に、乙女の輪へと加わる。
「休憩時間まで、あと五分。ベストを尽くしましょっ!」
「ほら、響」
「皆……よーし!へいき、へっちゃら!」
親友や仲間達、頼りになる大人達に励まされ、響は強く頷いた。
そして、乙女達は円陣を組む。
放つ熱気はオーラとなり、彼女達を包み込んでいるように見える。
「最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に!!」
『胸の想いを届ける為にッ!!』
今、聖戦は幕を開けた!
「はぁ〜……疲れた……」
休憩時間となり、机に突っ伏す藤尭。
例のごとくボヤきながら、目線を移した先はカレンダーだ。
今日は2月の14日。特異災害対策機動部二課の署内でも、浮き足立っている職員がちらほらと見受けられる。
言うまでもなく、署内でもこの日になると毎年、女性職員らがチョコを用意する。
主に了子が、高級店のお高いやつを買って来ては、ホワイトデーに3倍返しを要求するのが恒例行事だ。
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