愛を唄う花と雪(バレンタインデー特別編)
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面を見た事など、殆ど無かった気がする。
普段の彼は気弱な……所謂ヘタレの部類の筈だ。
だが、彼がヘタレの仮面の下に隠したもう一つの側面……。加虐的な笑みを浮かべた、『ご主人様』としての顔ばかりがチラつくのは何故なのか。
その理由は明白だ。
素直になれないわたし自身が、彼の加虐心を煽り、彼の内なる扉を開いてしまったからだ。
これまでは、彼にこじ開けられてしまった被虐心で、彼に応えてきた。
わたし自身、それは嫌でもなかったし、むしろ悦んで受け容れていたものだ。
本心を隠せば、彼が暴いてくれる。
甘い言葉と、意地の悪い表情と、抗い難い手つきで、わたしの本能を目覚めさせてくる。
でも、今回はその誘惑を断ち切らないといけない。
素直な自分で、理性を持った私自身で。
純真に笑う彼の照れ顔を、この目で見たい!
「クリス先輩、わたし頑張る。素直じゃない自分に、打ち克ってみせる!」
「うん、その調子。わたしも、頑張る」
「じゃあ、バレンタイン終わったら……」
「その時はまた、お茶しようね」
二人は向かい合うと、互いに激励のハイタッチを交わす。
やがて陽は落ち、夜は更け、そして次の朝陽が昇る。
いよいよ、その日がやってきた──。
「翔!」
夕食の後、食器を流し台に置いていた翔が振り返る。
「どうしたの、響さん?」
響は、冷蔵庫の奥に仕舞っておいた箱を背中に隠しながら、ゆっくりと息を整える。
「今日、さ……バレンタインでしょ……?」
「うん。そうだね」
分かっている顔だ。表情には出していないものの、この後の展開を先読みしているのは間違いない。
だが、今回の彼女は違う。
背中に隠していたケーキ箱を両手で持ち、そして翔の顔を真っ直ぐに見つめる。
ひとつ、すぅ……と息を吸い込むと、翔よりも先に言葉を紡いだ。
「翔、ハッピーバレンタイン!!」
「……へ?」
「これ、ガトーショコラ!翔と二人で食べたくて作ったんだけど……その……初めてだから、美味しく出来てるか分かんないけど、でも弓美達と皆で作ったから!だから、えっと……食べてくれる……よね?」
……数秒の沈黙がキッチンを支配する。
少しの不安に駆られ、響はつい瞑ってしまっていた目を開く。
すると、そこには……。
「へっ……?あっ……その……ひ、響さんが……作ってくれたものなら、僕は……その……たっ、たとえ失敗作でも全部食べるから!!」
望んでいたものが、目の前にあった。
「……純」
「ん? どうした、クリス」
贈られたガトーショコラを口にしながら、モジモジと落ち着かないクリスを見る。
頬を薄く染
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