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瞼に敬愛
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感じなかったが確かに重みが加わる。反射的に顔を上げれば、薄らと呆れたような諦めたような感情を滲ませた男が鼻で笑っていた。

「オル、タ……?」
「寝るんだろう」

 乗せられていた手がそっと離れ静かな声が降ってくるのを、どこか遠い気持ちで聞きながら彼の行動を目で追いかける。一人分のスペースを空け、横向きに寝そべる様はまるで、隣に並ぶ誰かを寝かしつけるためのような。そんなことをぼんやりと考えた次の瞬間、わたしはいつの間にか寝る体勢になっていた。何が起きた? パチパチと瞬きを繰り返している内に、ふんわりと布団が掛けられる。どうやらこの状態はオルタの尾によるものらしい、便利なものだ。彼の真似をして仰向けから向かい合うよう身体を捩れば、あの瞳が随分と近くにあるのだと気付く。
 不思議と恐怖心はなかった。手を伸ばし同意を得ぬまま頬に触れ、特徴的な神性の証をなぞってゆく。無遠慮に撫で回しているにも関わらず、抵抗らしい反応はないどころか、彼は目を閉じたまま好きにさせてくれた。何故だろう、それこそ噛み付かれたって可笑しくはないのに。

「気は済んだか」

 シーツに腕を下ろせば、気だるげな相貌が覗いた。うん、と自然に顔が緩んでいる自分に気付く。気が抜けたのだと自覚してしまうと、現金なもので新たな欲が湧いてくる。――ごめん、もう少しだけ。心の中でそう呟いて、彼の頭を抱きこんだ。

「……おい」
「ん」
「離せ」
「わたしが眠ったら、好きにしていいから」

 目を瞑れば二人分の体温でいい具合に温まった空気により、眠気が一気に加速してゆく。胸元で聞こえた長めの溜息に、ふふ、と夢心地の笑みが漏れた。ああそうだ、言いたいことがあったんだ。

「おるたー……、くー、」

 ねえ、ちょっと目閉じて。ちゃんと言えているのか自分でも分からないくらい、ふわふわしている。完全にくっ付いてしまいそうな視界をこじ開けて、確かに伏せられている瞼へ、唇を寄せた。

『オルタ、いつもありがとう。作戦とか苦手で、ついバーサーカー! って頼ってばかりだけど。でも、これからも頼りにしてる。あとね、クー。必要ないのかもしれないけど、たまにはこうやって休んでほしいなあ』

 果たして何処まで言葉に出来たのだろうか。届いているといいな、そう願ったのを最後にわたしの意識は落ちた。
 根拠はないが、彼には伝わっている予感がした。なぜならば。眠りの淵で拾った音は、これまで会話してきた中で一度も耳にしたことがないくらい優しいものだったから。きっとこの夢から覚めても、貴方が傍に居てくれる。それは、確かな未来なのだと。




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