瞼に敬愛
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「バーサーカー、おかえり!」
種火集めだけでなく、特異点修復でも活躍してくれているサーヴァント――クー・フーリン・オルタだ――がサポートから帰還した。丁度空き時間だったところだし、お出迎えしよう。お疲れ様、そう声を掛け、当然ながら傷一つない姿を視界に収める。でも何だろう、この感じは。じっと見つめても口数は決して多くない英霊の一人だけに、凪いだ深緋はただ私を映しただけだった。
「オルタ、暇ならちょっと付き合ってくれるかな……時間ある?」
「構わん」
このまま別れてはいけない、そんな警告にも似た思いに突き動かされ、先刻まで槍を握っていた英霊の手を取った。恐恐と言ったところか、ほんの少しだけわたしの指を包む力が強くなる。身長差がある分、歩くペースも彼にとっては遅いだろうに、黙ってついて来てくれている。そんな小さなことではあったが、胸の内を温めるには十分だった。可能であれば振り返ってみたり、腕を揺らしてみたいが今度こそ逃げられてしまう。それは是非とも避けたい。
「到着ー。さあオルタ、トゲとかマントとかフードとか解いてー」
「何故だ」
「いいから、ね?」
自室にて早速お願いをしてみるが予想通りである。表情に変化はないが、渋るというより理解できない、そう顔に書いてあった。うん、気持ちは分かるけど、了承しない限りこの手を離すつもりはないよ。声に出さず骨張った指へ自分のそれを絡めて笑顔を向ければ、通じたのか諦めたのか、彼を形作るものの一部が虚空へ溶けていった。これでよし。
「それじゃあ、一名様ご案内ー」
やや巫山戯ながら移動する先は、何を隠そうベッドである。掛け布団は足元側に畳んでいるため、靴さえ脱げばすぐに寝転がることが出来るのだ。事をスムーズに進めるにはまず、わたしがお手本を見せるべきだろう。さっさとブーツから脚を抜き取り、幾らか皺が残るシーツの上へ腰を下ろす。そこでようやく、繋いだままだった手を引く――が、やはりトントン拍子にとはいかないものだ。元より大した力を入れていなかった指をほどけば、呆気なく掌の温度は冷めていった。二人の間に広がった僅かな空間が、サーヴァントと人間の決して超えられはしない境界を突きつけてくる。
先程までの幸せな気分は寂しさで覆われ、消えてしまった。けれど、このままという訳にもいかない。こちらが座り込んでいるため、普段より高い位置にある二つの深緋を見上げて口を開く。うまく、笑えているだろうか。
「ごめんごめん、昼寝したくてさ。一緒にどうかなっていうお誘いだったんだ」
駄目だ、少し声が裏返ってしまった。情けない。強引に道連れにすることも、素直に謝ることも、遠慮なく断ってくれていいのだと言うことも出来なかった。悔しくて、涙が零れそうになるのを隠そうと項垂れた頭に、温度こそ
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