ターン21 歯車たちの不協和音
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のはっきりした立ち位置を言い表せないこの青年。学校に通うわけでもなく、さりとて定職についているわけでもない。ケーキ屋で居候して多少の小銭を得ているということは知っているが、それは仕事のうちに入れていいんだろうか。
この人、なんなんだろう。もう幾度となく繰り返してきた問いが脳内をぐるぐると駆け回り、いつまでも答えに窮するその沈黙を彼女はこう受け止めた。
すなわち、あまり人に言えないような立場なのだろう。
「もしかして、お仕事してない人……なの?」
「あー、えーっと……そうかも、しれないですね……」
「待って!?」
ずっこけそうになった当の本人である。もっともいくら丸聞こえとはいえ、思春期真っ最中な年頃の少女たちのひそひそ話に聞き耳を立てていた天罰が下ったのだという説もある。
「き、聞こえていたんですか!?びっくりしました!」
「びっくりしたのはこっちだよ!僕ずっとそんな目で見られてたの!?」
「えっと……」
「あ、否定はしてくんないのね……」
遊野清明、23歳。少年のままの見た目はともかく実家ではパティシエとしての実績もある叩き上げの洋菓子職人であり、元の世界ではデュエルアカデミア卒業後も近場のデュエル大会にふらりと参加してはそれなりの結果を出して小銭を稼いできた男である。間違っても、ニート疑惑を掛けられるいわれはない。と、本人は思っていた。
ちなみに実際のところ、この世界での彼は住所不定の職業不詳どころかまともな役に立つ身分証さえ持ち合わせていないので、あながちその評価も間違ってはいなかったりする。
「まーいいや、今度ゆっくりお話ししよーね八卦ちゃん。それよか今はほら、竹丸さんだっけ?君もこっちおいで」
「え?私も、ですか?」
「うん、どうやらお客さんっぽいし。これは、下手に近寄らない方が良さそうだと見たね」
「それってどういう……?」
意味深な言葉の意味をそこまで問おうとしたところで、わずかに遅れて少女にも近寄ってくる異様な気配が察知できた。今にも破裂しそうなほどに張り詰めた、怒りや憎しみでぐちゃぐちゃになった感情の塊。それが、ゆっくりとだが確実にこの場所へと近づいてくる。
「こ、これは」
「さーて、どちらさんですかっと。扉は開いてるよー」
「え?ええ?」
教室の扉を隔て、その気配が止まった。すりガラスのためにいまだ姿は見えず、ぼやけて見えるその恰好からは相手が中肉中背ぐらいの体格であることぐらいしかわからない。そしてそんな得体のしれない気配を前に臨戦態勢を整えるふたりとは違い、いまだに話についていけないのがこれまで争いごととは無縁の生活を送ってきた竹丸である。教室内に扉を通してたちこめるどろどろとした空気にはさっぱり気が付かないが、わからないなりに周りの状況から何かが
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