第十話〜代償〜
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先ほども出た呟き。
しかし今度は統率者である黄祖の口から漏れていた。
「忌々しい賎民風情が………」
既に孫堅は死地を脱しただろうことは予測できている。それはいい。劉表にとっては重大なことでも、彼にとっては些事以外の何物でもない。
彼が望むのはただ一つ。
目の前で怒り猛っている憎き少年を殺すことだ。
「………おい、貴様ら」
苦々しい表情を浮かべる上官の声にビクッと肩を震わせた兵卒たちは、声の主へと向き直る。
「もうアレは放っておけ。貴様らは100の騎兵で以て、敗走した孫堅を追え」
「し、しかしそのためには奴を越えねばなりませんっ…」
「だから数で押すように言っているのだ。何、100いれば50騎くらいは押し通れるだろう」
こうは言っているが、その実黄祖はその可能性を微塵も考えていない。
彼が考えているのは、もっと、仄暗いこと…
「聞こえたのならば直ちに行動に移せ。それとも俺が殺してやろうか?」
鬼気すら覚える上官に、兵卒は諾の意以外に示すことはかなわなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ふと、彼方の動きに変化が生じる。騎兵が隊列を取っているのだ。
精々4列くらいの幅しかないこの場において、その行為の意味するところは…
「ここで力押し…ですか」
江が最も恐れていた力ずくの吶喊。
いくら個人の力量が上回っていようと、これを覆すのは難しい。
「それでもやるしかない…のか」
それでも彼は後退しない。
孫呉の大黒柱になる。
それこそが彼の存在意義であり、ならばこれくらいの事態、跳ね返せなくてどうする。
自分を叱咤し、激励する。
やがて隊列を組んだ騎兵たちは江の左右を掻い潜ろうと行軍を開始する。
江はそれを許すことなく、力の限り得物を振り回す。
最早防御など度外視した全力の迎撃。それが功を奏したのか、未だ敵を通してはいない。
立ち込める土煙りの中、ようやく騎兵たちの最後尾が見えてきた。彼はそれを打ち砕くことに注力する。
彼は勘違いをしていた。
かつて生母が自らに言って聞かせた言葉の意味を。
『孫呉の大黒柱となりなさい』
その言葉の意味を履き違えていた。
もし正しく理解していれば、このような蛮勇とも言える行為をしなかったであろう。
故、報いはすぐに訪れた。
「………えっ?」
腹部に感じる激痛。
痛みを訴える部位を見れば、突き立っているのは偃月刀。
攻
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