第十話〜代償〜
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自身に殺到する兵を薙ぎ、穿ち、砕き、斬る。この単純ではあるが至難の業を、江は幾度となく繰り返している。江は周囲を取り囲んでいた兵士たちを全力で吹き飛ばした。
そして彼方を一睨みする。その頬に付着した血痕が、彼が修羅であると錯覚させる。
「どうしました?宴はまだまだこれからでしょう」
桃蓮を連れた一団がここから出立したのは既に一刻前。
その後、江は河と崖の狭い出入り口を巧く使い、一兵たりとも逸することはなかった。無論向こうが本気でここを抜けようとすれば、その目的は達成できたかもしれない。
しかし、黄祖の目的はあくまでも江の抹殺。この状況もある意味では黄祖によって作り出されたものであると言えよう。
「…化け物が……」
黄祖の配下の一人がボソッと呟いた。
端的に言えば、目の前の少年は異形だった。前後左右には所々が欠損した死体がばらまかれ、それでいて彼自身は返り血以外、つまりは手傷を負っていないのだ。
既に数百は討たれたであろう。
彼我の被害の差が、そのまま生命の格の差を示すようで、目の前の存在の異常性をより際立たせる。
「化け物ですか…。なるほど、それはいい表現です」
戦慄する兵士たちを意に介することなく、江はからからと笑い声をあげる。
黄祖側からしてみれば、妖の類が浮かべるそれにしか見えない。
「我らの主君が、将が、兵が、御身らに傷つけられ、奪われたのです。化生の身になろうと」
ここで貴様らを掃滅する。
未だ余力を残す黄祖たちに、江は怒りを込めた啖呵を切った。
ガッ
それと同時に江は大地を蹴り、吶喊する。
その速度は目で追うにも難く、故に自分の命の灯が燃え尽きたことにも気付かない。
「はぁあああああああああああああああ!!!!」
それなりに保たれていた彼我の距離を瞬時に踏み越え、敵前へと肉薄した江は大剣を振るう。
弱い者は首から上を根こそぎ刈り取られる。
それなりに強い者は、凶悪な一撃を防ごうと得物をかざした結果、得物ごと砕かれ、物言わぬ肉塊となる。
一振りで5つの命を
二振りで10の命を
あっさりと奪う。
それでいて彼は未だ満足していない。
「せいっっっっ!!!!」
振りおろした大剣は、一人の兵卒を左右に捌く。
尚あまりある勢いは大地を深く抉る。
修羅は怒りを滾らせ、残り2000近くとなった獲物を丹念に潰していた。
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「……化け物が…」
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