第十話〜代償〜
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背後から聞こえる、遠ざかる馬蹄の音に、江はもう耳を傾けなかった。
「茶番は終わったか?」
「はい、わざわざお待ちいただいてありがとうございます。…黄祖殿」
眼前にはいつしか顔を合わせたきりの副官の姿があった。
その副官の表情は狂喜の感情に彩られている。
「俺の目的はもとより貴様だ、朱君業。あの日の屈辱、片時も忘れたことはないぞ」
「ふむ、私も罪な男ですね」
「…そう、それだ。その余裕、その表情、その振る舞い、貴様の何もかもが俺を苛立たせる!」
狂った笑みを浮かべながらも、その眼には憤怒の感情がこもっている。
黄祖は手にした偃月刀を振るうと言った。
「語らいはこれで終わりだ。…者共かかれぇ!!!」
合図とともに、黄祖の配下たちが江に襲いかかる。
しかし、江の刻んだ線を越えようかというところで、その配下たちの首から上は消し飛ぶこととなる。
「な、何をした!?」
何が起きたのか理解できない黄祖は声を荒げて、江に問いただす。
対する江は、あくまでも余裕の態度を崩さない。
「おやおや、いけませんね」
「何をしたのかと聞いている!」
「私は言ったはずですよ?」
何人たりともこの線を跨ぐことを禁ずる、と。
1対3000。正に多勢に無勢、絶望的な状況下で、江の戦いは始まりを告げた。
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一方、安昌を取り戻そうとする孫呉の先遣隊は港の目前へと迫っていた。
襲撃の報を聞いてより無理な行軍を進めていたが、それは既に宛から安昌への行程のほとんどを消化していたことが幸いした。
故に兵士たちの表情には疲労というものは見られなかった。無論焦燥は散見されたが。
ふと、焔は後方を見やる。
不自然な挙動に、祭が反応を示す。
「どうした、焔」
「………祭、兵を少し借りていくわよ」
何をする。
その言葉を口から出す前に、焔は反転し、今来た道を引き返していた。そして一言二言大声を挙げると、数百の騎兵が彼女に追従した。その中には…
「…全く策殿も行ってしまわれたか」
しかし、祭も責めるつもりはない。
背後には孫呉の王がいる。宝がいる。
故に彼女は視線を港へと戻した。
「………古狸の弱卒に戦を教えてくれるっ!」
港を落とすのは自分たちだけで十分だ。だから主を救ってくれ。
言外にこめられた思いを胸に、祭たちは港へと吶喊を開始した。
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