第十話〜代償〜
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。
そして出口に差し掛かった時。
「………」
無言の江は馬を止めた。
突然の不可解な行動に桃蓮も思春も、そして兵たちも驚く。しかし加速のついた兵たちは容易には止まることが出来ず、結果江たちを追い越すこととなってしまう。
「…皆さん、殿お疲れ様でした」
そう言って桃蓮たちの方を振り返る江の顔には、いつものように穏やかな笑みが浮かんでいた。
そして先ほどまでの怒号とは打って変わって、これまた穏やかな口調で話す。
「皆さんは、このまま南下し、先遣隊と合流してください」
「…江様はどうするのです」
江の言葉は『江』のことについて触れられていなかった。
思春は江に問うた。
「私は…」
そう言うと、馬蹄を踏み鳴らし、追撃せんとこちらに迫る軍勢のほうを振りかえり、そして言った。
「彼の者たちを引き受けます」
「し、しかし」
「こ、江、お前、な、にを…」
多勢に無勢とはまさにこのこと。
あまりの言葉に思春だけでなく、桃蓮でさえも声を上げる。
「桃蓮様、これは極めて適切な判断です。まず君主であるあなた、そしてそれを護衛する思春、最後にその周りを固める兵士たち。そう考えると、ここで足止めのために捻出出来るのは私一人です」
「足止めならば私が」
江の言葉に更に反対の意を示そうとした思春。
しかしその言葉は最後まで言われることはなかった。
「聞き分けよ!!!」
江の言葉が遮ったから。
「お前では足止めにすらならない!お前よりもはるかに強く、場数を踏んだ私が適任だと言っているのだ!孫呉の将たるお前が自身の実力を見極められないでどうする!」
「っ!」
叱咤は幾度となく受けてきた。
それでもここまでの、怒号とも言えるものは思春にしても、桃蓮にしても初めての体験だった。江が怒りを顕わにしている。そのことに気を取られていると、江は馬上から降り、そして大剣を振るった。大地に一筋の線が引かれている。
「今この瞬間より、何人たりともこの線を跨ぐことを禁ずる」
そう言うと江は、桃蓮とそれを支える思春が乗る馬へと歩み寄る。
「桃蓮様、あとでまたお会いいたしましょう。そして思春、しっかり桃蓮様を護衛してください」
笑いかけると、馬の尻を蹴り上げる。
急な衝撃に慄いた馬は飛び上がって、前方へと駆けだす。
「さあさあ、皆さんもしっかり護衛をお願いしますよ。………ではまた」
踵を返し、江は追撃部隊の方へと歩いて行った。
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