第一章
[2]次話
ダブリンの猫
猫は喋らない、だが日本の東京の本社から仕事でアイルランドのダブリンに単身赴任をしている緒方堂太は今自分が住んでいるアパートの部屋の中で出勤する準備の中で一人呟いた。
「それは嘘だな」
「俺見てわかっただろ」
部屋の中にいる白のマンチカンが言ってきた、普通に若い男の声でしかも日本語で彼に対して言ってきた。
「そうだろ」
「ああ、まさか部屋借りたら猫がいてな」
「ここはずっと俺の部屋なんだよ」
猫は毛づくろいをしつつ四十代の日本人、痩せた顔に眼鏡をかけていてくたびれてそろそろ白いものが混じっているうえに額が心配になってきている緒方に話した。
「百年前からな」
「化け猫なんだな」
「化け猫じゃないさ、ケット=シーさ」
猫は緒方に平然として返す、そうしつつ今度は後ろ足で自分の耳の後ろを掻く、耳は垂れていて一見するとスコティッシュ=フォールドに似ている。
「そこんとこ宜しくな」
「百年前にマンチカンいたか?」
「さあな、俺は二百年前からこの姿だぜ」
猫の返事は平然としたままだった。
「だからいたんだろ」
「そうかな」
「ああ、それであんた猫は喋らないってな」
「普通の猫はそうだろ」
「俺はケット=シーっていう猫だぜ」
「ケット=シーって妖精じゃなかったか?」
緒方は日本にいる時に読んだ本の知識から猫に言い返した。
「確か」
「妖精でも猫だろ」
「そうかな」
「そうなんだよ、俺自身が言うから間違いないさ」
「強引な理屈だな」
「強引上等だろ、しかし猫が喋らないっていうのは人間の固定観念だよ」
今度は自分で紅茶を淹れる、人間の様に慣れた動きだ。
「猫だってな」
「喋るんだな」
「そうだよ、普通にな」
それこそというのだ。
「俺みたいなのもいるんだよ」
「普通というけれど普通の猫は喋らないぞ」
「それ俺がロンドンにいた時に同居してた日本人も言ってたな」
「夏目漱石さんだろ」
「ああ、夏目金之助っていって俺に日本語を教えてくれたよ」
それで今日本語を喋っているとだ、猫は以前緒方にこのことも話した。
「難しい言葉だな」
「英語喋れてアイルランドのゲール語も喋れて」
「ああ、日本語も喋れるぜ。あとチャイナタウンで中国語も習ったしフランス語もドイツ語も喋れるぜ」
「普通の人間よりも凄いな」
「二百年生きてるからな、それでこうした猫もいることはな」
白いティーカップで自分が淹れた紅茶を飲みつつ話した。
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