消えない歌声【後編】
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歌とメッセージは、キリトを絶望からすくい上げ、キリトを生かしたのだ。
――ありがとう……あなたの歌もメッセージも、ちゃんとキリト君にとどいてるよ……!
顔も、声も聞いたことのない少女に明日奈は感謝する。
彼女の歌は彼の魂の深いところに寄り添い、添え木のように彼をささえている。きっとこれからも。
だから明日奈は、雪の乗ったキリトの手を取り、伝えることにした。
彼がその雪の日から歩いてきた道が、自分を救ってくれたのだと、伝えるために。
「でもね。でもね、キリトくん……」
キリトにとっては、過去の悔恨を思い出す雪かもしれない。
もしかしたらこれからも、ずっとそうかもしれない。
いまの彼に、自分の言葉がどう響くかわからない。
でも伝えたかった。
その歌声に支えられた彼が、歩みを止めず、歩いて来てくれたおかげで、あの狂った世界で、魂そのものを救われた人間がいることを。
救われた人間がたくさんいるということを伝えたい。
すこしでも彼に温かさを与えたくて、明日奈はキリトの手を頬に当てた。
氷のように冷たい手のひらに、背筋が震えてしまう。でも彼の心はそれ以上に凍りついているはずだ。
明日奈はなんとか微笑みながら、彼の心が溶けるように祈りながら気持ちを伝えた。
「でもね、キリトくんが私を迎えに来てくれた日も、雪がふってたんだよ――」
キリトの瞳に光が戻り出す。何も映していなかった瞳に涙の膜がもりあがり、寒さで色を失った和人の唇が、わずかに震えてつぶやいた。
嗚咽まじりのしわがれた声だった。
「サチ……ケイタ……みんな……俺――」
クリスマスイルミネーションの向こうで、気の早い「赤鼻のトナカイ」が流れている――。
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