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「え――っとぉ……」

 ユイは俺の行為に戸惑った。
 それはAIが判断に困る時に行う「一旦停止・処理継続中」のそれではなく、もっと感情的なものにみえる。
 人間で言う、迷い、という感情そのものに。
 もういちど、ちょいちょい、と手で招く。

「パパ……!」

 それで決心がついたのか――俺はもう、ユイが「心」を持っていると認識しているがゆえの「決心」という言葉なのだが――ユイが満面の笑みを浮かべる。
 そのまま「情緒的」としか思えない勢いで、俺の上に飛び乗ってきた。
 
 
 どすん、と。



「うぎっ――」

 余りに勢いよく乗られたせいで、思わずうめいた。
 明確な攻撃行動ではなかったためか、アンチ・クリミナルコードが効かず、鳩尾のあたりに鈍痛。
 これがナビゲーションピクシーの姿をとっているときなら体当たりですんでいるのだが、体重が外見年齢並になっているユイの突撃は、ひかえめにいって「すごく」痛かった。

「あ……ごめんなさい、パパ……重力加速度を考えませんでした……」
「だい――じょうぶ。大きくなるのは、いい事だ。うん」

 これはやせ我慢半分、本音半分。
 鈍い痛みに耐えていると、ユイがコロンと俺の二の腕のあたりに頭をよせた。

 アスナは泣いちゃってごめんね、とつぶやいて俺の二の腕に頭をよせた。ユイも真似して左腕を枕にしてくる。
 現実でやったらあっと言う間に血流の流れが阻害され、しびれが走るだろう体勢だ。が、そもそもアバターに血流など存在しない。それゆえに、いつまででも、二人に腕枕をしつづけることができる。
 体の左側面の小さな体温と、右側面の慣れ親しんだ体温を感じつつ、ログで組まれた天井をぼんやりと見る。オブジェクトとしては完全に同一なのだから、当たり前と言えばあたりまえだが、こうして揺り椅子からながめる天井の木目の数まで同じだと、改めて実感できる。

 帰ってきてよかったなぁ……と。

 ぱちぱちとはぜる薪の音を聞きながら、俺はしばらく目をつぶって、帰郷の幸せをかみしめた。

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