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彼願白書
逆さ磔の悪魔
オーディエンス・サイド
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兵衛のようなバランスの日常に微睡んでいたい。
そう、思ってしまっている自分がいる。
それはきっと、自分だけではないのだけれども。

「提督、貴方がお忘れになるとは思いませんが……私達の居場所は、貴方の居場所でもありますわ。少なくとも、私はそうであってほしいと思っています。どうか、それだけはお忘れにならないようにお願いしますわ。」

「……システムから逸脱した私兵を率いる悪の親玉になるのは勘弁願いたいところだね。そんなの、テロリストとなんら変わらない」

「貴方が十字架に架けられて火に焚べられるのを指を咥えて見ていられるほど、私は大人しくはありませんわ。それはここにいる者のほとんどが同じではないかと」

「私としてはそこが悩みの種なのだがね。艦娘というシステムは、組織的に扱うにはあまりにも個人に依存し過ぎる。事の運びを誤れば戦国時代、中世の戦乱の時代にまで逆戻りしかねない火種が多すぎる」

「そこまで私達は、信頼出来ませんか?」

「信頼、では人の世は確立しない。いつだって人の世は悲観と罰則で成り立ってきた。人が何かの存在を認めるには、罰則という担保が必要なんだ。その罰則を作るために信頼という共通幻想をでっち上げる。ではその罰則を執行するのは?というところで、相手が罰則を与えられない怪物であったとしたら?人はそんな怪物を許容出来ないんだ。だから人は怪物を倒す英雄をいつだって求める。そして、その英雄は怪物がいるから許される。怪物のいない英雄は、怪物と変わらないから十字架に架けて火に焚べるか、檻に入れて封じる。そうしなければ、人は安心出来ない。許容出来ない。それが、人という生き物なんだ」

「その怪物の檻が、ここであると……そう仰いますの?」

「君達が外で生きられるようになるまで、確保、収容、保護する。それがこの基地の本質だ。少なくとも私はそのつもりでここにいる。ただ、人から見ればここは隔離、閉鎖、遮断のための施設に見えるし、この箱を開く時は我々を必要とする時だけ。なんならこの箱に頼らずに済ませたい。そういう厄介の種だ。いつかは、ここも平穏ではいられなくなるだろう。その時を出来るだけ先伸ばしにして、留保して、やりすごして、それでもダメだった時に一番不幸が少ない結果に収める。それが私の一番の仕事だ。生涯のタスクと言ってもいい。」

「では、ひとつだけ、私達と約束してほしいことがありますわ」

熊野はソファーから立ち上がると、テーブルを回って壬生森の隣に座り直す。
真ん中より少しずれたところに座っている壬生森の、狭い右側のほうに入り込むように座ったあとに肩にそっと寄りかかり、腕を絡ませる。

「私達のために、私達から離れる。そういう選択肢だけは、絶対に選ばないでください。今は信じているから、このくらいの距離で我慢しま
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