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彼願白書
逆さ磔の悪魔
オーディエンス・サイド
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でいいんだよ。理由ならあとでいくらでも付けられる」

「オークションの利益を横取りする算段でも?」

「もともと裏ルートでアメリカから口止め料を取る算段で内務省が動いていたのを先に御破算にしたわけだ。向こう50年は金の卵を産む鶏をこんな形でシメられちゃあ、内務省としちゃあ面白くないだろうね。内務省がここから溜飲を下げるにはどこに矛を向けるかは……明らかだね」

「海軍……」

「そう。海軍には間違いなく横槍を入れるだろうね。今回のリバースド・ナインで出た海軍の被害は各鎮守府が各々で自己補填するのだろう?だったら国から出す予算はない。自分で賄え、とね。海軍としては大弱りだ。なにしろ被害はブルネイ以外も負っているし、ブルネイみたいに独立独歩出来ている鎮守府ばかりでもない。むしろブルネイのほうがレアケースと見るべきだろう。かといって財務省越しに内務省とやり合えば、今度は軍閥化の嫌疑を旗印に鎮守府システムそのものにメスを刺されかねない。となると、海軍としてはブルネイに泥を被せるしかなくなる」

「逆にブルネイは海軍と鎮守府システムを人質にされた状態で何かしら要求される、と?」

「それに気付けば粛々と受け入れるしかないね。なにしろ、拒否すれば海軍の立場が危うい。内務省は待ってましたとばかりに海軍を締め上げに行くだろうね。それをわかっていて反発するなら、大したものだけど」

「提督はそれでもいいとお思いですの?」

「面白いことにはなりそうな展開だけど、実際に起きられたら困る展開だね。仮にも身内で喧嘩してられる状況ではないのだし。海軍が泥を被るところで手打ちだろう。海軍内のゴタゴタがどうなるかまでは知らないが」

「海軍としても完全に出し抜かれた形ですからね。ブルネイへの制裁もあるのではないかと」

「ないわけがない。それなりにきついペナルティはあるだろうね」

口に放り込んだ飴玉を転がしながら、壬生森は淡々と答える。
ふと、思ったことを熊野は壬生森にぶつけることにした。

「内務省がここを標的にした時、提督はどうなさいますか?」

「ここにまだ君達がいるというのなら、政治の場で戦うよ。君達の居場所はまだ、ここなのだろう?」

彼は当たり前のように答える。
提督は、私達の本心をわかっていて、そんな答えを言うのだ。
私達の居場所は、ここじゃないというのに。
ここに残ることを選んだ私達が本当にいたい場所は、他ならぬ貴方のいる場所なのだと。

口には出来ない、してはいけない、認めてはいけない、暗黙で見過ごされるのが一番の優しさだと知っている。
だからこそ、この空間を今も共有出来ている。
私達は、この平穏を破れない。
今はまだ、それでいいと思う。
彼の気が変わるまでは、この針の上をふらふらと回る弥次郎
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