逆さ磔の悪魔
オーディエンス・サイド
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のオフィスもあまり変わらない。
外部の変化でしか、月日の流れを感じられないのだ。
絶海の孤島にある閉じた砂箱のような鎮守府。
この鎮守府の性質上、新参はめったに現れないし、なんなら別れのほうが多いのだ。
北上と大井は内地の教導に、六駆は散り散りに派遣された。
もっとも、それが今生の別れになるような者達でもないのだが。
神風と春風の姉妹が新しく入ったのが、本当に珍しいくらいで、普段は新参なんかまず来ないのだ。
目の前にいる提督はこの鎮守府を大きくしたりするつもりはないし、出来ない以上は欠員補充くらいでしか新参を増やすつもりはないだろう。
新参が増える、ということはそれだけ私達が欠けるということだ。
いや、この男はきっとそんなことをしないだろう。
私達がある程度欠けたら、この鎮守府から身を引いて私達を退役させるなり他の教導に回すなりすると思う。
彼が今も提督でいるのは、私達というイレギュラーを抱え込むためだけなのだから。
そして、そのわがままを彼に強いたのは、紛れもなく私達なのだ。
そこまで考えたところで、彼は電話を置いた。
スクリーンのほうでは、ビッグパパがプレジデントを引き出したところだ。
「アヤコの種蒔きは上手くいったらしい。欧州のほうが名乗り出れば、アメリカも本腰で名乗り出るしかないだろうさ。ましてや企業を通しての参加ではなく、ホワイトハウス直々に出られる状態だ。まぁ、これでまた一歩、あの大統領は弾劾訴追に近付いたわけだが……」
「で、このままブルネイのいいようにさせておくのかしら?」
「私は別にそこはどうだっていいよ。個人的には海の底で静かに眠らせておくべきだったと思うけどね。羅生門の老婆じゃあるまいに、死体を漁って金を得ようとは思わないさ」
「確かに、冒涜的ですわね」
「そこに関しては語り尽くしたさ。あの死体にはもう魂がない。そのことは叢雲が槍を撃ち込んだ時点で確定している。むしろ死体が残ったことすら奇跡だ。本当に深海由来の天然物ならチリも残らないだろうからね」
「所詮は人の作った工業品でしかない、と」
「そういうこと。もちろんちゃんとお祓いはしておけ、と言っておいたけどね」
「貴方の口から聞くと、冗談にしか聞こえないですわ」
「ごもっとも。さて、それを踏まえてだ。永田町は当然、いい顔をしないだろうね。鎮守府の私物化ではないか?やはり軍閥化は既定路線だったのではないか?ブルネイひいては鎮守府や海軍を見る目は厳しくなる」
「鎮守府というシステムが揺らぐ可能性もありますわ」
壬生森はテーブルの上から缶箱を取り、中の飴をひとつ出す。
飴を出す時に揺さぶられる缶箱がまるで、かの鎮守府のように見えた。
「この缶箱と同じだ。中からちゃんと利益が出てくるならそれ
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