帰還(3)
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ぬくもりを求めてアスナは頬をリズベットによせた。
さら、と肩に掛けられていた何かが視界の端で揺れる。体を包み込んでいたものの正体は、キリトのロングコートだった。
――キリト君も来てくれたんだ。
一心不乱に前だけを見て走ったアスナは、追いかけてきた二人に全く気がつかなかった。
「おめでと……おめでと、アスナ……」
いっく、としゃくりあげるリズベットの体を、今度はアスナから抱きしめる。
「ありがと、リズ……。今日は本当に……迷惑――」
アスナは最後まで感謝を口にだせない。
親友に対する感謝の気持ちを表すには、きっと語彙が足りない。
しんしんと降る雪の音を聞きながら、リズベットと二人、お互いの体温を交わし合う。
しばらくすると、雪の落ちる音の合間に、りぃぃぃぃん、と聞き覚えのある高い翅音が響き、胸元にユイが飛び込んできた。
人形のような体を精いっぱいふるわせてアスナの胸に顔をよせたユイはやっぱり小さな、小さな涙を流していた。
「ママ――! ママ――!」
「ユイちゃん……」
ユイが胸に飛び込んでくる時の翅音を聞くまで、自分の背中にも翅があることをアスナは忘れていた。
走ったより飛んできたほうが早かったかもしれない。でもきっと、その翅を忘れて自らの足でホームに至ろうとしたのは、やはりSAOでの経験からだ。結局のところ、第一層から第七十五層のほとんどを歩き尽くした自分の足に頼ってしまった――。
すがりつくユイの背中を両手で包む。
「ごめん。リズ、ユイちゃん。もう大丈夫だから、ね」
胸で涙を流すユイがはい……とうなずき、リズベットが最後に大きくしゃくりあげて微笑んだ。
スカートから取り出したハンカチで涙をふき、ゆるゆると振り返る。
てっきりこちらを見守ってくれているものばかり思っていたキリトは、アスナに背を向けて立っていた。コートを脱いだキリトは薄手のシャツ一枚で雪の上に立っている。こちらを向いてくれていないキリトにほんの少しだけ寂しさを覚える。
だが――。
「……?」
決して体格の良い方ではないキリトの背が、いつもより少しだけ小さく見えた。
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