第七十四話 元服しその四
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猿夜叉は元服の時を迎えた、彼は晴れて新九郎という名を貰いその後で久政から諱と妻の話をしてもらった。
そこでだ、彼は久政に話した。
「父上、お話があります」
「六角家とのことか」
何かとだ、久政はよく言われているのでこう応えた。
「またか」
「はい、どうかです」
元服し新九郎となった彼は畏まって話した。
「六角家と独立し」
「当家だけでは」
「朝倉家とは誼を続けていきますが」
それでもというのだ。
「頼らず」
「それでか」
「それで、です」
まさにというのだ。
「独自でやっていきましょう」
「そう言うが当家にはな」
「その力がないと」
「近江の北、四十万石だけでじゃ」
それだけではというのだ。
「八十万石の六角家には対することは難しくな」
「朝倉家との誼もなければ」
「生きていけぬ」
「だからですか」
「お主は血気に逸り過ぎておる」
久政から見ればそうなるというのだ。
「だからな」
「ここは、ですか」
「落ち着いてじゃ」
そしてというのだ。
「もう一度当家と近江、それに越前のことを見てな」
「天下ではなく」
「天下とな」
「はい、天下の全てを見て」
そうしてとだ、新九郎は話した。
「考えることは」
「それは必要ない」
久政は新九郎に述べた。
「当家は近江の北にある」
「ならですか」
「それ以上大きくなるつもりがないであろう、お主も」
「当家はこのままでいいかと」
新九郎はこの考えも話した。
「それ以上の力はありませぬし」
「そうじゃな」
「今の近江の北以上は望めば」
若しそうすればともだ、新九郎は話した。
「過ぎたものになり」
「それでじゃな」
「持て余すか最悪は」
どうなるかというのだ。
「滅びます」
「過ぎたものを持てばな」
「そうなりますので」
「それはその通りじゃ」
まさにとだ、久政はこのことについては安堵して我が子に答えた。表情もそこで穏やかなものとなった。
「近江一国全てもな」
「それもです」
「過ぎたものであるな」
「はい」
「ならな」
「六角家ともですか」
「左様、争うべきではないわ」
また我が子に話した。
「何があろうともな」
「そう言われますが」
「ならぬ」
「そうですか」
「よく考えよ」
「では」
新九郎は強い声で言った、するとだった。
海北達が動いてだ、久政を取り押さえた。
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