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靴墨
第七章
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そしてある?、我の前に完璧を見た。我が簡單で純朴なる完璧は、道の向かう側で立つてゐた。あれは貴女でなくあの死んでゐる女性もでなかつたが、目で我を見つゝ立つてゐた。あのころ想つたことは、その素敵なる體を、いまや容易に得れると。もう、いかなる境を渡つたと。また幸せだつた。魂の汚れを 擲(ナゲウ)ちて誠の美を有することが出來ると悟つたから。
でもいまの我が目的は貴女だ。それを覺えると、怖くなつた。天に手を擧げて、「~樣よ!我を見てゐますか?我を見掛けてゐますか?我は成つた者を見て!爾は我にした事の所爲で我はしてゐる事を見て!いまや、喜んでゐますか?でなければ歸らせて下さい!喜んでゐたら、我はいま爾の意思を行ひますからお手傳ひ下さい!」と。
そして、ひざまずいて泣いた。シツトリした土瀝を爪で引つかいてをり、其の下に自分を埋めりたくなり、爪すべてが折れ血が出た。
突然、あの快い頃よりは、
「全てはお前の所爲だ!今お前の人生で起こるのは自分自身の所爲だ。お前は充分なるものがあり、お前たちは幸せだつたが、自分自身でお前があつたもの全てを反發して、今や死と一獅ノ幸せになり、死者の空氣を息をする」と。
誠に!人生の美しさは我を裏切つた。結局それは自分の魂や熱も無き純なる面影に連れてきた。これは、我に制壓せられる唯一の面影であるやうな氣がしてゐた。
書いて非ざるだれにもない手紙も、言はれて非ざるだれにもない言葉も。それら全てを守つてゐる。靴墨に咽(ムセ)びつゝでも守り續ける。皆は、それを捨てろうと言ふときでも守り續ける。全ては以前のやうになることを志すのは無駄でも、いつまでも志し續ける。あの頃、天使の道を?いたりあの瞬閧ワで見たことない物を見たり感じたりしてゐた。その物全部を覺え、あの頃から覺えてをり、後でも覺え續ける。死んでも其等を守り續け、その思ひ出の影は冥界で貴女をたゝる。突然貴女も、笑つてゐたことを覺え、悲しくなる。我は貴女に「目を見て」と言ふときに、貴女の目を見たいのは、その目が好きだからでなく、貴女を囘る血と切り離された希望の海はその目に映るかだうか見たいからである。
我が新たなる女~たる死を贊美する。死は、美を得る機會を我に下さつた。手を伸ばして持つてよ!そんな簡單。
夜閧ノも、晝閧ノも、其等の街頭で貴女を見つけなかつた。貴女のスケジュールなんかをうかゞへなかつたほど素朴だつた、我。それに、貴女は學業以外ほかのところに行くことが無かつたらしい。
しかし時が來て、機會が失せた。我が位置で立たなかつた者は、無意味なロマンティツクなる夢幻と本當の?意との違ひを、だうしても分かれぬ。戀しい女性の家の鄰りで?きながらナイフを手で握り、今にも其れをポケツトから出してなにも勘づかぬ身體への扉を刄で開くに備えたこと、ある?もうグニャグニャした屍を入りやつと其
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