第三章
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「迂闊には攻められないな」
「ムスリム達からの信望を集めている」
「それならば国が大きく乱れることもない」
「只でさえ今のアッバース朝には勢いがある」
「だからな」
「この状況ではな」
まさにと言ってだ、そのうえでだった。
ウマイヤ朝も迂闊には攻めなかった、それでだった。
彼等はどうにもと話して迂闊には攻めなかった、そして。
当のハールーン=アル=ラシード自身はこう言っていた。
「私は全てだ」
「全てと言われますと」
「アッラーのご加護でだ」
それによってというのだ。
「もたらしてもらっている」
「左様ですか」
「そうだ」
己の前に控えるジャアファルに答えた。
「私はな」
「カリフはいつもそう言われますが」
「実際にだ、私はな」
まさにと言うのだ。
「そして全てのムスリム達と同じくだ」
「偉大なアッラーの下にあり」
「そしてだ」
「カリフにあられるので」
「まさにだ、アッラーによってだ」
「全てがあるのですね」
「アッラーは偉大なり」
この言葉も出した。
「そのことは常に心にあるつもりだ」
「そうですか、では」
「うむ、軍を出す」
非常に整ったジャアファルの顔を見つつ告げた。
「そなたも来るのだ」
「承知しました」
「そなたもだ」
もう一人控えている者に話した、それは髭のない黒人の大男だ。処刑人のマスルールその人である。
「よいな」
「おおせのままに」
「よいか、ビザンツの者達を破り」
そうしてというのだ。
「何時かムハンマドの預言のままにだ」
「あの国の都を攻め落とす」
「そうしますね」
「そうする、ビザンチウムをな」
こう言ってだった、ハールーン=アル=ラシードはジャアファルとマスルールを連れて戦場に向かった。
ハールーン=アル=ラシードはアラビアンナイトでもよく知られているカリフである、だが物語の彼と実際の彼は結構違っている。物語では非常に素晴らしいカリフと書かれているが実際の彼は色々とどうかという部分があった。
だがそれでも物語に描かれ今も人気があると言えるのは何故か、それは実際の彼には自ら勇敢に戦い文芸や文学を保護し真面目にイスラムを信仰していたというよき面も多かったからだと言われている。だからこそ今も愛されているのであろう、イスラムの古き良き時代の人物の一人として。
問題はあるが 完
2019・9・15
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