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第五章
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「いいわよ」
「じゃあ」
「けれどそれは」
 花楓はサングラス越しに恒興を見つつ言った。
「まだまだ先よ」
「今日付き合いはじめたばかりだから」
「まさかと思うけれど」
 サングラスをかけた顔を彼に向けつつ話す。
「付き合っていきなりキスとかそういうの考えてないわよね」
「漫画じゃないから」
 そうしたとだ、恒興は笑って返した。
「幾ら何でもね」
「けれどしたいとは思ってるでしょ」
「そう言われると」
 恒興としてもだった、彼も男である。もっと言えば花楓も女である。
「否定出来ないね」
「そうでしょ、けれどね」
「それでもだね」
「それは徐々にね」
「お付き合いを深めていって」
「そうしてね」
 そのうえでというのだ。
「していくものよね」
「井上さんもそう思うよね」
「やっぱりね、というかね」
「というか?」
「私そうした経験ないから」
 花楓は自分からこのことを話した。
「それも一切ね」
「そうなんだ」
「そう、そして」
 そのうえでというのだ、
「彼氏出来たのもはじめてだから」
「そっちもなんだ」
「告白されたのも」
「全部なんだ、僕もだけれど」
「お互いはじめてね、じゃあ尚更ね」
「徐々にだね」
「していけばいいから。まずは」
 サングラスに手を当ててだ、花楓は恒興に話した。
「一緒にいる時はこのサングラスを外せる様にね」
「お部屋の中に入って」
「そうなれる様にしていきましょう」
「まずはだね」
「それからね」
 花楓は口元を微笑まさせた、サングラスをかけていてはそこまでしかわからない。だが恒興はサングラスのその奥の彼女の目が見えた。それで笑って言った。
「笑った目可愛いよ」
「えっ?」
「サングラスでも見えてるから」
「いや、見えてないでしょ」
「見えたよ、サングラスかけても見えるものは見えるから」
 それでというのだ。
「見えたから」
「それでなの」
「そう、ちゃんとね」
「今言ったのね」
「そうだよ、笑った目可愛いよ」
「そんなことないでしょ」
 花楓は恒興の今の言葉に瞬時にして戸惑った、それでだった。
 顔を赤くさせた、そうして何か言おうとしたが。
 言葉が出なかった、それで言ったのだった。
「私胃の目が可愛いとか」
「実際に可愛いよ」
「お世辞言っても何も出ないわよ」
「実際だよ」
「そうかしら」
「うん、だからいつも笑ってたらいいよ」
「そう言うなら」
 サングラスはかけたままだった、だが。
 花楓は顔を赤くさせたまま笑っていた、そうして恒興と共に駅まで行き電車に乗った。彼女がサングラスを彼の前で外す様になったのはこの時から暫くのことだった。恒興はその顔も可愛いと言って花楓をまた赤くさせた。



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