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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission1 カッサンドラ
(3) 特別列車スカリボルグ号~線路~???駅前ターミナル
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倒事が待ってるから。契約通りお助けします」

 面倒事――それはビズリーの前でルドガーが骸殻に変身したゆえに降りかかる艱難辛苦。
 返す返すも悔やまれる。もっと強く拒絶して、あの場から去らせていれば。ビズリーの挑発に乗って懐中時計を出さなければ――

 ずくん。

 思考を遮ったのは左腕の痛みだった。
 ユリウスは右手で左腕を押さえる。時歪の因子(タイムファクター)化が進んだ体は時折こうして痛む。

 前のめりになった体を支える手があった。

「――んなさ――さま――」

 項垂れるユティの表情は窺えない。ユリウスは胸板に当てられたユティの手を自ら外した。

「もういい。大丈夫だ」

 口に出して自身に言い聞かせる。まだ大丈夫、時間はある。ルドガーがこちら側を知る前に終わらせる。

「もう行きなさい。――あいつを、頼む」

 ユティは項垂れたまま、それでも肯いた。


 ユリウスは踵を返して歩き出した。すると、数歩行ったところで、背後からシャッター音が聞こえた。
 顧みる。案の定、ユティがカメラを構え――憫笑していた。


「いってらっしゃい」


 毎日当たり前にルドガーから聞いていた挨拶。しばらく聞けなくなる。
 挨拶だけではない。あいつの手料理やあいつのいる家。どれもこれからは遠すぎる。余人にはどうでもいいことでも、ユリウスには生命線を切断されたに等しかった。

 それでも自分がやらねば、誰がルドガーを守ってやれるという自負がある。

 ユリウスは背筋を正し、再びユティに背を向けて歩き出した。








「がんばってね――とーさま」


 呟きは夜風に溶けて消えた。

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