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毛皮の帽子とラム酒
第一章

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               毛皮の帽子とラム酒
 デビー=クロケットはアンドリュー=ジャクソンの下で民兵として戦い武勲を挙げそれで名声を得た。そこでだった。
 彼は次第にこれはいいことだと考えてある親しい友人に相談した。
「選挙に出てだ」
「議員にかい」
「なろうと思うが」
 こう言うのだった、面長で長い黒髪が実に凛々しい。それはまさに戦場にいた者の顔であった。目の光の強さもそれを物語っており身体つきも引き締まっている。
「どうだろうか」
「君の名声は今やかなりのものだ」
 友人はクロケットにこのことから答えた。
「戦争で武勲を挙げてな、そしてだ」
「名声を得るとな」
「この国は欧州とは違う」
 友人はクロケットに今度はこのことから話した。
「名声があり能力があればな」
「それでだ」
「そうだ、誰でも議員になれる」
「政治を行える者にな」
「もっと凄くなれば大統領にもなれる」
 友人はこのことも言った。
「欧州で言う王様にな」
「そうだな、だから私もだ」
 クロケットはあえて政治家らしい振る舞いを意識して一人称をこうした、そうして友人にさらに話した。
「名声があり能力もだ」
「あるとだな」
「自覚している、それでだ」
「選挙にか」
「うって出て」
 そしてというのだ。
「議員になる」
「わかった、ではその為にな」
「まずはだな」
「選挙に当選することだ、その為には演説にもだ」
 言葉、それも大事だというのだ。
「訴えることだ」
「わかっている、そちらの自信もある」
「なら出るといい」
 友人はクロケットの背中を言葉で押した、そしてだった。
 クロケットは選挙に立候補し大衆即ち有権者達に対して演説を行った、その演説は自分の過去の武勲とその資質と人柄を喧伝するものだった。それ自体は選挙に立候補する者としてありきたりなものだった。
 クロケットのその演説自体は問題がなかった、それで彼は成功したと思った。だがここで思わぬことが起こった。
 有権者の一人がこう彼に言ってきたのだ。
「あんたがそんなに素晴らしいならだ」
「それなら?」
「俺達を酒場に連れていってラム酒位奢ってくれるよな」
 こんなことを言ってきたのだ。
「そうだよな」
「ああ、そうだよな」
「立派な人ならな」
「気前だっていい筈だからな」
「それ位の懐位あるだろ」
 他の有権者達もその有権者の言葉に賛同しだした。
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