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異能探偵・番長五郎( #いのたんちょう )
1-1 番長五郎、登場
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椅子を指差した。少し離れたところで、やかんが音を立てている。

「おっと。珈琲珈琲。飲む?」
「貴様の珈琲は砂糖とミルクを大量に入れた上に、妙な薬剤も入れたシロモノだろう? 茶でいい」
「そう。じゃあ白湯にするね」
「んなっ……」
「修正は要らないけれども、罰は要る。そういうことだよ」

 下手くそな口笛を吹きながら、相方はコンロへと向かっていく。三分ほどして、彼女は二つのコップを手に戻ってきた。コップをテーブルに置いた後、長五郎の対面に座る。長五郎の前に置かれたのは、宣言通りに白湯だった。

「本気かよ」
「本気だよ。なにせ今月の賃料が危うい。安ビルの一室とはいえ、人様からの借り物だからね。キミの立場を考慮すると、払えなくなった時点で追い出される」
「……去年の俺が向こう見ずに過ぎたのは認めるが、そういう言い方をされると腹が立つな」

 白湯をすすり、長五郎は口を尖らせた。確かに相方と組み、この一室に住居兼事務所を構える羽目になったのは自身が原因だった。率直に言えば「醜聞」の類に属する、身分違いの恋が関係している。

「自業自得だろう? 大学にも残れず、職のアテもない。そんな可哀想な青年を拾ってやったんだ。感謝したまえ」
「感謝はするが脚色は要らんだろ。貴様だって無一文で新聞紙に包まっていたじゃないか」

 気にしている箇所を突かれたことで、長五郎は頭に血が上っていた。その結果。

「あのう……」
「はい?」

 不意討ちの闖入者に、気付けなかった。いや、闖入者と言うには不適切か。ともかく、声のした方向を見る。出入口近辺に、中年のサラリーマンが立っていた。冴えないという言葉が、あまりにも当てはまっていた。

「番探偵事務所は、こちらでよろしかったでしょうか……。後、すみません……。返事がないので、入ってしまいました……。困っている、ので……」

 猫背気味で、ボソボソと喋るサラリーマン。長五郎は内心で溜息を吐いた。こういう手合いは色々と面倒だと、経験則が語っていた。

「合っていますよ。どうぞおかけください」

 その間に動いたのは相方だった。営業スマイルを浮かべ、丁寧な所作と言葉で応対する。先程までの態度とは大違いである。

「し、失礼します……」

 長五郎の向かいに、サラリーマンがおずおずと座る。急かしたいという衝動を、長五郎は理性で押さえ付けていた。

「力抜いて」

 相方が、口の動きだけで伝えてくる。いつの間にか横に座っていた。ニッと笑みを浮かべ、話の口火を切る。

「かしこまらずに、ざっくばらんに参りましょう。今日はどうなされました?」

 テノールに近い高音で、彼女は柔らかく問いかける。サラリーマンは一度下を向き、ズボンの太もも部分をきゅっと握った。そし
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