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異能探偵・番長五郎( #いのたんちょう )
1-1 番長五郎、登場
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年の動きは素早く、目の前から消えたようにさえ見える。だが長五郎は読み切っていた。

 下から突き上げて来る右の肘鉄。必殺を試みた左の拳。顔面めがけて飛んで来る右の掌底。少年の流れるような連撃を、長五郎はわざと紙一重のところでかわした。

「綺麗な技だ。ただしそれ以上でもそれ以下でもない。筋が見えれば、さばく必要もない」
「くっ……」

 たった一度の攻防で、力量差は明白となった。しかし長五郎は、敢えて舌鋒を振るった。少年の意地を叩き折り、圧倒的な勝利を追い求めんとしていた。少年を依頼人の元へ連れて行く為には、こちらの言うことを聞かせる必要があった。

「まあネタバラシは程々にするが……。当たりさえしなければどうということはない。まあ先日は当てられ、病院に送られたがな。なあ、俺が何故ここに生きてるか、分かるか?」
「うるさいっ!!!!」

 少年が足を踏み鳴らす。空気が揺らぎ、腹を突き上げるような振動が長五郎を襲った。相方は震脚と言っていただろうか。腰を落とし、太腿に力を入れる。異能は使わない。電車に傷を残したくなかった。

「簡単な話なんだから聞こうぜ少年。なにを隠そう俺も異能持ちだ。相殺して、我慢比べをした。ギリギリのところで、踏みとどまった」

 振動が止まって、再び口を開く。既に反撃の態勢だった。右足を後ろに下げ、前傾姿勢。いつでも踏み込める。

「なあ。おまえさんを探して、はるばる大陸から船ではるばるやって来た奴がいるんだ。どういうアレでこっちに来たか知らんが、終いにしようぜ?」

 答えを聞く前に、長五郎は動いた。踏み締めていた足をバネに使い、低く素早く、直線的に間合いへ入る。

「防戦も、種明かしも。お前さんを折るにはどうにも足りねえ」

 列車の上でも、長五郎の動きは揺らがない。板張りの道場にいるかのように、滑らかな足運びで少年に迫っていく。

「だから力で叩き折る」
「っ!」

 少年は背を反らし、最小限の動きでかわそうとしていた。しかし時既に遅し。長五郎はささやかな抵抗すら許さなかった。大柄な体を屈めて少年の真正面に踏み込み、ほとんどゼロ距離で不敵な顔を突き付ける。少年の腰が引け、大勢が決した。

「やっぱりな。お前さんの武技、異能頼りだ」
「う……」
「大人しくしとけ!」

 軽く言葉を交わした直後、長五郎は少年の鳩尾に拳を叩き込んだ。反吐を吐いて崩れ落ちた少年を支えつつ、長五郎はひとりごちた。

「迎え撃っていれば、勝ち目もあったかな」

 駅に近付いた列車が、徐々にスピードを落としていく。よく見れば、官憲も先回りしていた。遠目ではあるが、拳銃や刺股が見える。武道家連続襲撃事件の下手人相手には、おおよそ妥当な武装と言えた。

「チッ、面倒は避けるか」


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