第七十三話 元服前その五
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「織田家とことを構えておるからな」
「はい、この近江に力を割く余裕はありませぬ」
「武田家も木曽から伺っておりますし」
「ですから斎藤家は安心してよいですな」
「あの家は」
「左様じゃな、六角家に専念出来る」
浅井家は斎藤家と仲がよくない、下剋上そして親殺しの家として感情的に嫌っているだけでなく国を接しているのでいざかいがが絶えぬのだ。
だがその斎藤家が介入してこないとなるとだ、猿夜叉にとっては好都合でありここでこう言うのである。
「よいことじゃ」
「ですな、そして朝倉家ですが」
「やはり兵を出してくれそうもないですな」
「あの家については」
「残念ですが」
「うむ、どうもご当主殿がな」
義景、彼がというのだ。
「六角家に近いからのう」
「ですな、どうも」
「花押の形を見ましても」
「朝倉家の方にしても」
「六角家に近いですな」
「そのこともあるし元々な」
その義景のことをさらに話した。
「戦は宗滴殿に任せられて」
「そしてですな」
「宗滴殿に出陣も命じられぬ」
「越前から兵を出されるおつもりはないですな」
「あってもそのお考えはあまり、です」
「ならじゃ」
それならばとだ、猿夜叉はまた意を決した顔で述べた。
「やはりな」
「当家だけですな」
「当家だけで戦い」
「そして独立し」
「それからは当家で進んでいくべきですな」
「わしは朝倉家に頼り過ぎては駄目だと思っておる」
この考えは確かだった、猿夜叉の中では。
「常に言っておるがな」
「今のご当主殿では」
「全くですな」
「宗滴殿もご高齢ですし」
「これからもとは」
「そもそも他の家に頼る様な家ではならん」
駄目だというのだ。
「むしろじゃ」
「他の家に頼られる」
「そした家でなければなりませぬな」
「この戦国の世では」
「左様ですな」
「それでは他の家に侮られる」
そうもなってしまうというのだ。
「それでは何にもならぬわ」
「全くです」
「ではやはり」
「元服されれば」
「その時は」
「若殿は立たれますか」
「血は流させぬが」
家中にというのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「浅井家の為に」
「立たれますな」
「そうするとしよう」
こう言ってだ、今は雌伏するのだった。だが猿夜叉はその雌伏の間も秘かに動き時が来るのを待っていた。
六角家はその動きを知らなかった、だが。
宗滴は浅井家のその動きを見て当主の義景に話した。
「殿、ここはです」
「浅井家をお助けせよとですな」
「はい、そうしてです」
こう自身の従曾孫に言うのだった。
「六角家に対して優位に立ちましょう」
「そう言われますが」
義景は己の前に控え進言する宗滴に返した。
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