第六章
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その彼女が去ってからだ、岸田は真帆に言った。
「今の娘って」
「気にしないでいいでしょ」
これが真帆の返事だった。
「特に」
「そうなんだ」
「そうよ」
まさにというのだ。
「別にね」
「何か気になるけれど、逆とか」
ここでだった、岸田は。
はっとした、それで真帆に言った。
「あの、平田さんまさか」
「そ、そんな筈ないでしょ」
真帆はここでまた顔を真っ赤にさせて言い返した。
「私がどうしてあんたなんか好きなのよ」
「違うんだ」
「そんな筈ないでしょ」
表情も必死だ、その顔で言うのだった。
「勘違いしないでね」
「そうなんだ」
「そうよ、今日はボディーガードで」
真帆はさらに言った。
「仕方なくだし。ただね」
「ただ?」
「あんたが言っても受け入れないから」
こうも言うのだった。
「何があってもね」
「あの、やっぱり」
「やっぱりじゃないわよ、とにかく帰るわよ」
真帆は何とか自分のペースに岸田を入れて話した。
「いいわね」
「神戸にだね」
「違うわよ、難波に行くって言ったでしょ」
このことは忘れていなかった。
「だからよ」
「ああ、そう言ってたね」
「自由軒に行って」
「そこでカレーを食べて」
「夫婦善哉にも行って」
この店にもというのだ。
「食べるわよ」
「あそこの善哉って確か」
夫婦善哉のそれについてだ、岸田は述べた。
「二つ出てるよね」
「ええ、そうよ」
それがどうしたのという口調でだ、真帆は返した。
「あそこのはね」
「夫婦だから」
「それがどうかしたの?とにかくね」
「これからだね」
「難波に行くわよ」
「それじゃあね」
「あとね」
真帆は岸田にさらに話した。
「私織田作之助は好きだけれど」
「それで作品も読んでるんだ」
「あの人の作品の主人公って放浪するけれど」
織田作之助の作品の特徴である、主人公は精神的にも肉体的にもそうなりそして最後は落ち着く場所に着くのが作風だ。
「あんたはしないでね」
「というと」
「私もしないから」
かなり気恥ずかしそうな顔での言葉だった。
「そこはいいわね」
「あの、やっぱり平田さんって」
「だからそんな筈ないでしょ」
また必死の顔で言う真帆だった。
「間違ってもね」
「そうだよね、やっぱり」
「じゃあ難波行くわよ」
こう言ってだった、真帆はその場をかなり強引に自分のペースで収めてだった。
そうして岸田を難波に連れて行ってカレーと善哉を食べた、この彼女が岸田に勇気を振り絞って告白するのはまた別の話だ。それはこの時の天邪鬼に言われたことがはじまりであったことは言うまでもない。
大阪の天邪鬼 完
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