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君と過ごす夏(パラぐだ♀)

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「線香花火っていうんだよ」

 マスターが微笑みながら持ち出したそれは、随分と頼りないただの紐のように見えた。陽は落ち、暗くなった外で彼女と二人、膝を折った状態で額を突き合わせる。火事にならないよう、水を汲んだバケツも用意して準備は万全。

「はい、パラケルスス」
「ありがとうございます」

 明かりを兼ねた小さな蝋燭に灯る炎から揃って熱を移す。数秒もすれば、パチパチと軽快ながらもはっきりと花が開いた。溜息すら吹きかかれば消えてしまいそうな、けれど芯のある光。向かい側にはじっと息を潜めているらしいマスター。きっと真剣に見つめているのでしょう。そっと視線をずらせば、予想に反して穏やかな顔が宵闇の中ぼんやりと照らされていた。まずお目にかかれぬ表情は、少女らしさに隠れた艶を色濃くしているようで。もしや、これは役得というやつでは。

「あっ、」

 彼女には聞こえないように口元を緩めた瞬間、対面の火花が呆気なく消えていった。先程までの空気は何処へやら、残念そうに唇を尖らせたマスターの面持ちに堪えきれず、笑い声を漏らした振動で私の火玉もぽとりと落下してゆく。

「はあ……これも幸運値の差?」
「さて、どうでしょうね」

 いつから勝負事になっていたのか、次は負けないとの宣言を受け二本目の花火へと手を伸ばしながら改めて思う。ああ、この人が私のマスターで、友であってよかった。




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