『霊長類 浅倉南へ』な話
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「そうそう。今度お前の学校行くぞ」
総一郎が隼人からそう言われたのは、水曜日朝の電車の中でのことだった。
「残念ながら日曜日に野球の練習試合でだけどな。頑張ってくるよ」
髪を掻きながら、かなりバツが悪そうに笑う彼。
総一郎の気持ちは瞬時に高揚した。
(これは……! 野球をする彼の姿が……初めて見られる?)
さっそく、『ならば応援に行かなければならないな』と答えようとした。
が、寸前で思いとどまった。
(ちょっと待て。失敗はこういう気分のときに起こりやすい)
ここは落ち着いて考えるべきということで、総一郎は一度心の中で深呼吸。隼人からかけられた言葉を、高速かつ慎重に振り返った。
ここでつまらないミスを犯して評価を下げることがあってはならない。
まずは、彼の言葉の「残念ながら日曜日」という部分に注目した。
生徒会役員というものは、行事直前などの繁忙期以外、日曜日に学校に行く用事はない。そして今が繁忙期でないことは、つい数日前に電車内で生徒会の話題になったため、隼人も知っている。
そのうえでの「残念ながら」である。
彼は「見に来てくれ」とは一言も言っていないし、そこにあえて応援に行くという行為は、積極的すぎて引かれてしまう可能性あるのではないだろうか。
さらに精査すると、「残念ながら」が「日曜日」だけでなく「練習試合」にも係っているのではないか、という疑惑も浮上した。
彼は野球部のレギュラーで、ポジションはピッチャー。ガチの球児である。
そして高校の野球部となると、学校の看板を背負って戦うというイメージが強い。
そう考えたときに、『対外試合で堂々と相手の学校を応援する生徒会役員』というのは、彼の目にはどう映るのだろうか?
野球部員でない総一郎としては推し量るのが難しかったが、彼の中の『総一郎の株価』が大幅に下落するリスクがあるような気がした。
(あぶない。ストーカー認定されたあげく生徒会失格の烙印を押される可能性もあった)
模試で出題される問題は簡単だが、彼が出題する問題は非常に難しい。
(『休むも相場』『最初のチャンスは見送る』などの格言もある。ここは自重しよう)
総一郎は『見にいきます宣言』を返すのはやめることにした。
「そうか。生徒会役員として堂々と対戦相手を応援することはできないが、よいプレーができるよう心の中で祈っているよ」
無念ではあったが、総一郎は平静を装い、そう返した。
駅の改札を出て学校に向かいながら、総一郎は考える。
彼が野球をしているところ。
想像は何度もしたことがあった。
きっと、通学のときや勉強のときとは全然違う雰囲気になるのだろう。そう思っていた。
(や
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