『霊長類 浅倉南へ』な話
[9/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
(スマホに入っている彼の連絡先を見せられれば楽なのだが。まあダメだな)
それは重大なリスクが潜んでいる。
隼人とこのマネージャーがお互いの連絡先を交換していない可能性が0ではないからだ。この様子だとまずありえないとは思うが、0でないということが問題となる。
万一このマネージャーが隼人の連絡先を知らず、ここで初めて知ることになった場合、客観的には自分が彼の連絡先を第三者に渡す行為となる。
プライバシー情報は法的保護の対象。自分は個人情報取扱業者ではないので罰則はないものの、違法行為となってしまう。よってその選択肢はない。
(そもそもだ。なぜ隼人君と友人であることを証明しなければならないのだろうか? 謎だ)
信用してくれてもよいのに。総一郎は不思議に思ったが、この女の子は隼人のチームのマネージャー。無視したり無下に扱ったりもまずい。
困る総一郎。
「お? ヒマリか? 何やってんだ?」
「――!?」
そしてなぜか、マネージャーの後ろ、階段のほうから隼人の声。
ヒマリというのはこのマネージャーの名前か。
当然のことながら、階段を登りきった彼は総一郎も視界に入る。
「あっ!! 総一郎!!」
彼のサラサラだった短髪は汗と帽子の癖で乱れ、ユニフォームも膝が土で変色している。総一郎にはそれもまた魅力的な姿に見えた。
が、この状況である。まずい。
先ほどのマネージャーからの出題である『隼人の友人である証明』は、彼の登場時のセリフをもって成立としてよいのかもしれない。
しかし今度は隼人への対応が必要になる。
窮地は続く。
なぜ学校に来ているのか。なぜここにいるのか。なぜこんな格好をしているのか。
きっとそれを聞かれるのだろう。
瞬時に言い訳の最適解を導くのは不可能だ。
そもそもこのような状況にならないために、あれこれ練っていたのである。すでに作戦は破綻していた。
彼の中での総一郎株は暴落。明日はブラックマンデーになるかもしれない。
(どうする……)
楽器ケースに入る?
プライベートジェットで国外逃亡?
もはやまともな打開策は思い浮かばない。総一郎は死を覚悟した。
しかし――。
「俺のプレー、見にきてくれてたんだな! ありがと!」
隼人は満面の笑みでそう言って距離を詰めると、総一郎の首に右腕を伸ばしてきた。
きっと肩に手を回したつもりだったのだろう。
ところが有り余る力とガサツな動作で、少し彼よりも背が高い総一郎の首は、やや下向きにロックされる感じになった。
彼はそのまま、総一郎も巻き込んで体を半回転させた。
その後首のロックがゆるめられ、二人でグラウンドを眺める格好となる。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ