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だいたいチーバくんのおかげでややこしくなった話
『霊長類 浅倉南へ』な話
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な事態は想定していなかった。
 階段は屋上まで伸びておらず、建物側の扉も施錠済み。逃げ場はない。

(正直に答えるしかないか)

 変装も一瞬で見破られているし、ごまかせそうな気はしない。
 素直に回答を返すことにした。

「僕はそちらの学校の隼人君の友人で、個人的に彼を応援――」
「怪しい」
「何?」

 すぐに遮られてしまったうえに、意外な言葉が飛んできた。

「怪しい。本当に友達なの」
「なぜそこを疑う?」
「わたし、隼人を幼稚園のころから知ってる。小学校も中学校も同じ」
「……!! 彼の幼馴染で同級生、そしてマネージャー……だと……?」

 衝撃のあまり、またも心の中の声が口から出てしまっていた。
 この女の子、無表情なのでけっして快活な印象があるわけではない。だがこれはまぎれもない。ポジションは『タッチ』でいうところの浅倉南。確定だ。
 総一郎はそう思い、いっそう警戒を強めた。

 ところが、女の子は変わらぬ表情と声のトーンで、誤りを指摘してきた。

「同級生じゃない。学年は一つ下」
「!?」

 後輩だったようだ。

(ということは)

 浅倉南ではなく新田の妹ポジション? 新田の妹といえば負けヒロイン。ならば脅威とはならないのか?

 いや、違う。わかったのは同学年ではないという事実だけだ。
 幼馴染の属性は解消されていない。新田の妹ポジションと決めつけるには早すぎる。だいたい、『タッチ』では新田の妹は一つ下ではなく二つ下だったはずだ。

 それに、浅倉南と新田の妹のいいとこ取りの可能性もあるのではないか? 史上最強のスーパーヒロインとなる可能性も否定できないのでは?

(あ)

 総一郎は、また脳が不随意に余計な思考を巡らせ始めていたことに気づいた。
 理性で抑えつけにかかる。

(どうも最近は脳の暴走が多いな。いけない)

 今大事なのは、目の前のマネージャーの属性を確定させることでも、勝手に将来を推定することでもない。
 なぜか隼人の友人であるという事実を疑われている。それに対応しなければならない。

(疑われている理由が、『わたし、隼人を幼稚園のころから知ってる。小学校も中学校も同じ』ということは……)

 聞き返せる雰囲気ではないため、今ある材料でやりくりして考えるしかない。

(「本当に友人なのであれば、幼馴染の自分が知らないのはおかしい」という意味かな)

 隼人とは、朝の電車が一緒ということで仲良くなった。
 だがその電車、一般的な学生が乗るよりも早い時間のものだ。総一郎は生徒会おなじみの朝当番のため、隼人のほうは朝の自主練のため、である。
 当然このマネージャーが同じ車両にいたことはない。経緯など知る由もないはず。
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