『霊長類 浅倉南へ』な話
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のまにかそこには、ハーフパンツにTシャツの小さな女の子がいた。
「!?」
総一郎の心臓が跳ねた。
足音もしていなかったし、気配もまったくなかった。
その女の子は、試合開始前に隼人にタオルを渡していた、マネージャーとおぼしき女の子だ。
双眼鏡で見たときと変わらない、ジト目無表情。
彼女は総一郎を無言で見つめながら、一歩、また一歩と近づいてきた。
(なぜここに?)
無意識に総一郎は後ずさっていた。
すぐに背中が手すりに当たり、それ以上は下がれなくなった。
あえなく詰まっていく距離。
女の子は、ほぼゼロ距離で総一郎の顔を見上げてきた。
総一郎は気圧され、上体を反らせてしまう。
「やっぱり。用務員さんじゃないね」
「……!」
いきなり変装を見破られて驚く総一郎に対し、女の子はジト目で顔を覗き込み続けた。
やがて一言、ボソッとつぶやいた。
「イケメン」
女の子はそれだけ言うと一歩下がり、ようやくパーソナルスペースから抜けてくれた。
(なんだ? 何が起きている?)
総一郎は眼鏡を直した……つもりが、コンタクトだったので空振りして右手が宙を泳いだ。
(落ち着け)
行き場の失った右手で一度胸をおさえ、ゆっくりと元に戻した。
この敵は確実に手強い。浮足立ったままでは戦えないと本能的に判断していた。
「君はあっちのマネージャーだな? 僕になんの用かな」
嫌な予感とともに、そう聞いた。
それは即的中した。
「あんた、こっちが8回にピンチを切り抜けたときに、大きなガッツポーズしてた。で、すぐに隠れた」
総一郎の心臓がふたたびドクンと大きく拍動した。
しっかりと見られてしまっていたのだ。
彼女の右手には、ボールが握られている。
ゲーム開始直後の特大ファールボールを今探しにきて、そのついでにここに寄ったのかもしれない。
ここは野球場から自然に観察できる場所ではない。特大ファールボールが飛んできた時点で、階段に誰かいるというのがこのマネージャーにバレていて、そこからずっとマークされていたのだろう。
「あと、6回にうちのバッター……隼人がヒットを打ったときも、小さくガッツポーズしてた」
「は?」
声が出てしまった。
それは総一郎本人もまったく身に覚えがなかった。無意識に出ていたか。
「どうして。あんたここの生徒でしょ」
「なぜわかる?」
「最初はカン。でもあんた、今さっき、わたしのことを『あっちのマネージャー』って言った。だからもう確定」
「……」
けっして追及するような厳しい口調ではない。
だが、ジト目に無表情が恐怖だった。
(どうする……)
こん
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