『霊長類 浅倉南へ』な話
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塁を踏まれ、一アウトでランナー三塁・二塁となった。
(これは、まずそうだな)
マウンド上の隼人が帽子をとり、アンダーシャツの袖で顔の汗をぬぐっている。表情も序盤に比べて余裕がなくなってきたか。
内野手がマウンドに集まってきた。
総一郎は双眼鏡でマウンドを拡大した。
どうやら内野手は頑張れと声をかけているようだ。
(自分もここから声をかけたいな)
もちろんそんなことはできない。我慢我慢、である。
激励タイムが終わり、隼人が投球を再開した。
フォームは一段と力強く感じた。かなり気合いが入っているように見える。
自分の前では発したことがない彼の雰囲気。
見ているだけの自分の体にも力が入る。
全力で放ったであろう隼人の投球。
対する打者がバットを振る。
金属音が響いた。快音ではない。
力なく上がった打球は、ファールグラウンドで一塁手のミットに収まった。
(もう一人。がんばれ)
総一郎の目から見ても、ボールの緩急はなくなっていた。速球のみ。
さきほどのタイム後より、キャッチャーからサインらしいサインは出なくなった。構えもど真ん中のみだ。そして一球一球、隼人が投げるたびにコクリとうなずいている。
細かい駆け引きはせず、とにかく全力で活きたボールを投げる。そういう方針でこの危機を乗り切るということなのだろう。
さすがに打者も球種は読めているはずだが、バットをかすらせるのが精一杯。ボールを前には飛ばせない。
あっという間にツーストライクとなった。
そして。
さらにギヤが上がったのか、投球動作の勢いで隼人の帽子が舞った。
打者のバットが……空を切った。
キャッチャーミットから、この日一番の捕球音がした。
高らかに響く、「ストライク」の声。
バッターアウト。スリーアウトチェンジだ。
「よし!! ナイスピッチングッ!!」
総一郎は拳を握りしめ、思わずそう叫んでしまった。
慌てて口を手で押さえ、コンクリートの手すりに隠れるようにしゃがみこむ。
そして頭部だけそーっと手すり上に復帰させ、隼人が他の野手と笑顔でタッチを交わしながら引き上げていく様を見届けた。
結局、試合は1−0で隼人の学校が勝利となった。
総一郎はゲームセット後の整列および挨拶を見届けたあと、しばらく余韻に浸ったのち、撤収に入ろうとした。
(今日は見に来てよかった)
心底そう思いつつ、双眼鏡をバッグにしまった。
トイレの個室に入って用務員作業服から制服へと着替える必要があるが、日曜日は外階段からの入り口が施錠されているため、いったん降りなければならない。
……が。
広い踊り場で振り返ると、いつ
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