『霊長類 浅倉南へ』な話
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。
ベンチに座って帽子を脱いだ隼人に、一人の女の子が後ろから近づき、タオルを首にかけたのだ。
そして隼人は後ろを振り向くことなく、片手を軽くあげて応えたように見えた。
(なっ……)
総一郎は用意していた双眼鏡をサッと構え、事件現場を十分に拡大した。
その女の子は、背は低めだ。髪型はショートで……前下がりボブというものだろうか? 服装は黒のハーフパンツに、紺のTシャツ。女性マネージャーでありがちな格好である。
ジト目無表情なのでわかりづらいが、どちらかというと綺麗系というよりも可愛い系の属性で、おそらくかなり器量よしであろうと思われた。
(マネージャーなのは間違いなさそうだが……)
気になったことがいくつもあった。
タオルを渡すのはふつう笑顔とともに起こす行為だと思われるのだが、ジト目無表情のままであったこと。後ろから不意打ちのように首にかける渡し方だったこと。彼が振り返らずに返礼をしたこと。
これは――。
(相当な付き合いの長さと信頼関係がないとありえない)
野球漫画『タッチ』でいうところの浅倉南、正ヒロインポジションの可能性がある。最大級の警戒が必要かもしれない。
総一郎の双眼鏡を持つ手に、力が入る。
そして追い打ちをかけるように、男性部員が一人、笑顔で頭を下げながら飲み物を隼人に渡した。彼も笑顔でそれを受け取る。
雰囲気的にその男性部員は先輩ではなさそうだ。同級生もしくは後輩か。今はジェンダーレス社会。男でもマネージャーで浅倉南ポジションという可能性はゼロではない。
そのまま見ていると、さらに他の男性部員が次々と隼人に声をかけていく。
(ああ、ダメだ。彼にアクションを起こす人間がみんな浅倉南に見えてきた)
霊長類、浅倉南へ。
読む野球漫画は『MAJOR』だけにとどめておくべきだったか、と総一郎が悶々としていると、両チームの選手がホームベース前で向かい合うように整列し始めた。
いよいよ試合開始のようだ。
(さっきから余計なことを考えすぎだ。このような体たらくでは彼の試合を観戦する資格はない)
今度は頭を一度ではなく何度も振り、雑念を取り払いにかかった。
(試験と同じく集中しなければ)
それはなんとか成功し、プレイボールの声がかかるころには頭が観戦モードに切り替わっていた。
隼人の学校が先行で、ホームである総一郎の学校は後攻のようである。
(ほう。隼人君の打順は一番なのか。がんばれ)
右バッターボックスに立った隼人の背中に、総一郎は応援の念を送った。
バレなければ。声さえ出さなければ。
思う存分に観戦・応援しても問題はない、はず。
少なくとも、隼人本人にダイレクトでバレる可能性は
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