『霊長類 浅倉南へ』な話
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はり、見たいな)
見たい。
見たい見たい。
見たい見たい見たい。
見たい感情がどんどん増殖して頭の中を占有していくなか、総一郎は信号のない横断歩道を渡ろうとした。
「――!」
車の急ブレーキの音。総一郎の足も止まる。
総一郎の目の前で、一台の軽自動車が止まった。
「悪ぃ、兄ちゃん。大丈夫か? ここはいつもコンビニ客の迷惑駐車が並んでてよ。渡ってくる奴が見えにくいんだわ」
開いた窓から中年男性がそんなことを言った。
と同時に、一つのアイディアが出てきた。
(なるほど。その手があった)
総一郎は運転席のほうに回ると、男性に話しかけた。
「ありがとうございます。おかげでよい案が浮かびました」
「ん? いい案? なんのことだ?」
「日曜日まで今日を含めて四日。努力できることは色々あると思います。頑張ります」
「はあ?」
総一郎は一礼すると、ふたたび学校へと向かって歩き出した。
* * *
日曜日の朝。
総一郎は、通っている学校の旧校舎四階の外階段にいた。
現在は理科・家庭科・美術科などの授業でしか使われていないものの、天井の低さ以外はさほど古さを感じず、かなり重厚なコンクリート造りの校舎である。
外階段も手すりの部分までコンクリート造りであり、外からは胸から上しか見えない。発見されにくいうえに、いざとなったらしゃがんで隠れることも可能だ。
水曜日の昼休みに、場所探しを済ませていた。
グラウンドにある野球場を三塁側から見下ろすようなかたちになり、ピッチャーである彼のことがよく見える。それでいて、逆に野球場のほうからはまず目に入ることはない。
それがこの場所だった。
そう。
総一郎は今回、彼の試合を「こっそり見る」ことにしたのである。
空に浮かぶ雲の色は、白い。
(彼の眩しさは六月の空すらも浄化し尽くすか――)
雲量も四割以下といったところ。梅雨入りしていることが嘘のような、非常によい天気の日曜日だった。
(準備はおそらく完璧だ)
念には念をということで、木曜日に購入したチャコールグレーの「用務員作業服」および水色の「作業帽」を、先ほど着用して変装していた。
目にも眼鏡ではなく、ワンデータイプのコンタクトレンズを着用している。これは双眼鏡を使いやすくするためと、万一彼のチームメイトに発見された際、『メガネかけてる奴が変なところで試合を見てたぞ』となって隼人にバレてしまうことを防ぐためである。
さらに、水曜日の放課後に本屋で野球の専門書を購入し、その日のうちに読破していた。知識なしで見ることは失礼と考えたためである。ルールは一通り理解済で、スコアブックをつけ
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