君と過ごす夏(柳ぐだ♀)
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「ちょっと待っててくださいね!」
そう言って引き留める間もなく駆け出した少女は、意外にも近くの小間物屋らしき店の前で止まった。周囲の危険はない、とカルデアとの通信を行ったとて少々警戒心が薄すぎる。一つ嘆息した後、日陰になっている東屋の長椅子へ再び腰を下ろし、瞼を閉じた。
辺りの異常を見逃さぬよう気を巡らせて数分、軽やかな足音が耳に入ってくる。目を開けて確認する必要もない、己が主のものである。ところが、すぐ傍までやって来た音が不意に止んだ。はて、如何なされた。顔を上げようとしたところで頬に冷たい何かが触れる感触。
「びっくりさせたかったんだけど、バレバレでしたね」
しゅわしゅわ、と泡が踊る瓶を受け取って長めに息を吐き出す。聞こえたらしい彼女は困ったような、けれどどこか残念そうな表情を浮かべて私に謝った。
「……今回は水に流すとしよう」
さて主殿、これは何という飲み物かな。気遣いであろう手拭いが巻き付けられている部分を握り直し、そう問えば。少女は己の隣へと座り、向日葵のように笑みを開いてゆく。きっと"マスター"になる前、いつかの彼女もこうして夏を謳歌したのだろう。
――初めて口にしたラムネなるものは、私にとって幾分刺激的ではあったが、不思議と郷愁にも似た気持ちを抱かせた。
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