猫を撫でるのが上手い
[8]前話 前書き
「あれ? 足が重たくなっ……わぎゃっ!!」
日差しの強い森の小道は、逆に木陰の闇が濃くなる。端から気が付いていたオレとは違い、マスターは声こそ聞こえていたが、その姿を捉えてはいなかった。だからこちらが立ち止まった隙に音も無く忍び寄ったそいつに驚くのは仕方が無い。
「びっくりしたー……猫かあ」
「――、」
「黒にゃんこだ、かわいいなー」
その正体が野良猫だと分かるや否や、屈みこんで撫で始めた――その横で、オレは震えていた。少女の奇声やその身体が大袈裟に跳ねる様が余りにも、要するにツボに入ってしまったのである。お陰で下から聞こえてくる、鳴き声とその真似のユニゾンが耳をすり抜けていく。
「……いつまで笑ってるの」
「はー、すまんすまん」
大分収まってきた頃、胡乱げな視線と不満そうな指摘が飛んできたそこで、少女の隣に座り込んだ。気持ちよさそうに腹を撫でられている猫にオレも手を伸ばす。光を吸収して温かさを増した毛皮をなぞれば、ぐるぐると獣の喉が鳴った。
「えっ、クーずるい!」
「は?」
「わたしのときはゴロにゃん、ってならなかったのに!」
さては魅惑の指遣いだな貴様、とそこそこ本気で羨んでいるらしいマスターは時々、色々分からない。取り敢えず、ともう片方の手でオレンジ色に輝く毛並みを梳くも不正解だったようでぺしりと弾かれた。お前さん、その反応はまさに猫と同じだろ。そう声に出しかけたが、今は知的なキャスタークラスなので大人しく口を噤んでおく。横から再度腕が伸び、大小二つの手で遊ばれる黒い毛玉だけが暢気に欠伸をしていた。
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