第一部
運命力
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ないでいる。
目も焦点が合っておらず、像が幾つも重なって見えているような有り様。
(負けるかよ。絶対に勝つからな)
「立華紫闇君。クリス・ネバーエンドさん。これから準決勝が始まります」
二人は控え室から出た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
舞台までの通路を歩く二人。
「ねえ。あんたどう見ても棄権した方が良いわよ。試合で手は抜けないし」
クリスは油断はしている。
戦うまでも無いと。
「は…はぁ……。勝つぞ……。俺は勝つぞ……」
紫闇は強がって笑う。
「でしょうね。諦めた目じゃないもの。ところであんた『運命力』って知ってる? ある学者が発表した説なんだけど私は信じてるのよ」
曰く、この世界には運命力という概念が有り、それが強い人間ほど困難にぶつかった場合に乗り越えやすいそうだ。
実際に紫闇も覚えが有る。
フィクションの主人公みたいな存在。
彼等は味わう苦労こそ差は有れど、数多幾多の人間が絶対に越えられないとされている壁を都合良く乗り越えてしまう。
中には壁を壁と認識せずに踏み越えたり、跨いだり、壊したりする人間。
そんな人間を近くで見てきた。
「タチバナシアン。あたしから見たあんたも運命力が強いと思う。でもコウガミハルトには敵わないわ。あそこまで運命力が強い人間は世界中を探してもそうそう見つかるもんじゃない。だからこそあいつはブッ壊してやりたい極上の踏み台なのよ」
クリスは優勝して《江神春斗》への挑戦権を手にし、そして勝つことを譲れないのは紫闇のように限界を突破して壁を壊すことで何かを得る為なのかもしれない。
しかし春斗と戦いたいのは紫闇も同じ。
「これでも良い踏み台だって認めてるのよ。だから調子が万全の時に戦いたい。今回はあんたの望み通りにならないんだから」
対抗心に火が点いて反骨心が高まる紫闇からクリスに対しての負けん気が顔を出す。
「お前の言葉を……借りようか……。上から目線がムカつくんだよド畜生……! 彼奴と戦いたいのは俺だっておんなじだ……。それに……江神は『俺』を待ってくれてるんだぜ? だったら大人しく敗北を受け入れるわけにはいかないだろ……!」
クリスと紫闇は途中で分かれた。
互いの入場口に向かう。
「負けてたまるかよ……」
『門はまだ、開ききっていない……か』
またもや幻聴が聞こえてくる。
しかし今はどうでも良い。
彼は歩くことに集中し舞台へ上がった。
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