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ヘタリア大帝国
TURN30 左遷その八
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「まあ。レーティアはね」
「私が?何だ」
「いえ、仮面は知っているかしら」
 ここでだ。グレシアは真面目な顔でレーティアに問うた。
「仮面はね」
「仮面?急に何だ」
「人の素顔よ。素顔のことはね」
「人には表の顔と裏の顔があるということか?」
 レーティアもこの歳で一国の国家元首になった訳ではない。その勘も尋常なものではない。
 だがまだ若い、幼いと言ってもいい。
 それでだ。彼女は気付かずに言ったのである。
「そのことだな」
「そうよ。そのことは知っているかしら」
「知っている。今まで色々なものを見てきた」
 レーティアはここで過去を思い出した。己のその過去を。
「私もまたドクツに、いやオーストリアにいたからな」
「この前までドクツもオーストリアも酷いものだったからね」
「敗戦により全てを失った」
 このことをだ。レーティアはグレシアに忌々しげに述べた。
「敗北で全てを失った我々はエイリスとオフランスにさらに徹底的に搾り取られた」
「それこそ檸檬の種までね」
「何もかも奪われた。生きる糧さえも」
「ドクツにあるのは絶望と」
「失業と餓えだけだった」
 まさにだ。あるものは暗闇ばかりだったのだ。
「その中で誰の心も荒み」
「嫌なことばかりだったわね」
「絶望は人の心の闇を露わにしてしまう」
 レーティアは今このことを言った。
「仮面の裏をな」
「私が言うそのことをだというのね」
「善人だと思っていたのにだ」
 これもだ。レーティアの過去だった。
「人を騙し裏切りだ」
「そしてよね」
「そうだ。生きる為に、だがそこからだ」
「醜い裏の顔を誰もが出していたわね」
「それがかつてのドクツだった」
 絶望の中でだ。そうしたものも露わになったのである。
「私の家族もその中で皆死んでいった」
「お父様もお母様もよね」
「エヴァもだ」
 レーティアは泣きそうになった。グレシア以外には見せない顔だった。
 そしてその顔でだ。こうも言ったのだった。
「私の目の前で痩せ細ってだ」
「そしてだったのね」
「死んだ。ミルクが飲みたいと言って」
「誰も妹さんを助けなかったのね」
「私はエヴァの為に。少しのミルクでも手に入れようとして」
 そしてだ。何をしようとしたかというのだ。
「街中、当時私達が住んでいた街を駆け回って助けをこうた。だが」
「誰もだったのね」
「冷たく突き放され断られただけだった」
 突き飛ばされ倒れ込む。レーティアはその過去も思い出した。
「そしてエヴァは遂にだ」
「貴女の目の前で」
「死んだ・・・・・・小さく冷たい手だった」  
 妹が死ぬその手をだ。握ったがそれでもだったというのだ。
「力もなく。弱々しい手だった」
「貴女も。見てきたのね」

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