番外編 黒狼の正義
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涙が溢れる前に――憎まれ口を返していた。
「……でも。しょうがない、よね」
――自分は新兵で。孤立していて。彼は場慣れしていて。強くて。
それだけ揃えば言い訳としては十分だと、彼女は決め付けていた。こんな最低な男に、恩義を感じてしまう言い訳としては。
『しかし、よく俺のような海賊の言い分を聞いたもんだな』
「……不本意ながら、助けて頂いたのは事実ですから。ここは、『義賊』って言うことにして差し上げます」
『……義賊。義賊ねぇ』
そんな彼女にむず痒い言葉を浴びせられ、宇宙海賊はコクピットの中で僅かに視線を泳がせる。その様子が、どこか可笑しくて――キャノピー越しに彼の表情を見遣るメドラは、口元を緩ませていた。
「結局、お尋ね者ですけど。悪い人ですけど。それでも、奴らと戦ってくれたことだけは『正義』だって思いたいんです」
『よせよ、正義なんて。……そういう御大層な言葉はな、人間に成せるような軽いもんじゃねぇんだ』
「……正義は、軽くない……?」
『あぁ。……だから俺に「正義」はいらねぇ。「義」の一文字で、ちょうどいい』
悪党と蔑まれ、罵られて当然という世界に生きてきた彼にとって。「正義」などという言葉は、あまりにもむず痒く、眩しい。
故に彼は妥協点として、「義賊」という評価だけを受け取ることにした。「正義」未満の「義」だけで十分。そう、言い切るかのように。
「……行くんですね」
『……あぁ。あばよ』
これ以上関わっては、どんな照れ臭い言葉をぶつけて来られるか分かったものではない。その不確定要素から逃れるかのように、漆黒のコスモソードは急速に旋回し――遥か彼方に広がる暗黒の大海へと、進路を変える。
――この時代だ。次に生きて会えることは恐らく、もうないだろう。セドリックにはもちろん、メドラにも、それは分かりきっていた。
分かりきっていたから。どうせ最後だから、「正義」などという大仰な言葉を残したのだ。
この先、何があっても。彼のどこかに、自分という存在が残るように。
――それが彼女の、「命の恩人」に対する仕打ちであった。
「……ふふっ」
『……ムカつく奴だ』
そんな彼女に、ため息をつきながら。孤高の「義賊」は、次なる戦場を目指して飛び去って行く。救援に駆けつけた味方部隊に発見されたメドラ機から、逃げるかのように。
「……ほんとにね。ムカつく」
そして、友軍機の機影を一瞥した後。消え去って行く黒狼の翼を見上げて、口元を緩めて呟く彼女もまた――彼と同じように。
いつか会えればと、笑っていた。
◇
それから、何年もの歳月をかけて。この宇宙から異形の群れが滅ぼされ、人類の「正義」が成し遂げられたのだが。
その成就の陰
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