番外編 黒狼の正義
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いった。牙さえ持たない1匹の羊が、狼の森に迷い込むように。
そうして果敢に宇宙を駆け抜ける白い翼は、星の海に艶やかな軌跡を描き――狼達を引きつけていた。
自分達に迫る敵機を察知した宇宙生物の群勢が、彼女に狙いを定めるのは、もはや必然であり。その獰猛な牙は人間の生き血を求め、メドラ機を狙っていた。
「――生憎だったな、蛆虫共」
だが、必然はそこまで。純白のコスモソードを襲う凶禍の牙が、その機体に伸びることはない。
格好の獲物が放つ「無防備」という甘美な香りが、異形の群れから思考を奪い。頭上に迫る黒狼の刃さえ、霞ませてしまう。
それこそが、セドリック・ハウルドの必然。メドラ機の陽動に容易く惑わされ、死を待つ肉塊と化した宇宙生物達に――漆黒のコスモソードは、熱線の豪雨を以て死罰を下す。
天より異形を穿つ灼熱の嵐は、人類に仇なす無法者を一瞬のうちに焼き切り、貫いて行く。無数の凶眼は瞬く間に生気を失い、命だった何かは虚空へと四散した。
――その裁きを与えた断罪者は、正義の使者には程遠いならず者だが。命を賭して戦地を翔ぶ、幼気な少女にだけは決して当たらぬ彼の閃光は、この世界に確かな正義を灯していた。
それからも、少女はただひたすらに真っ直ぐ。次の一瞬に待ち受ける死の可能性に震え、それでもフットペダルからは足を離さず。
宇宙海賊に命運を託し、戦渦の宇宙を駆け抜ける。
そんな彼女に、応えるかのように。ならず者もまた、決して彼女が傷つかぬよう――その穢れなき翼に迫る災厄を、斬り払い続けていた。
僅か数ミリの誤差が生じれば、その瞬間に彼女の翼は熱線に焼かれ、死の奈落へと消えて行く。
そうと知りながら彼は躊躇うことなく、確実に当てられるように。異形の群れを、限界まで引きつけ――撃ち続けていた。
――死にたくない死にたくないって、今にも泣きそうなアイツなら、止まることなく飛び続けてくれる――
――アイツだって、囮がなくなったら困るはず。だからきっと、助けてくれる――
それは、互いを信頼しているかのようであり。呪っているかのようでもあった。
◇
そんな2人が、この戦いを生き延び。宙域に潜む全ての異形を駆逐したのは、彼らが巡り逢ってから僅か5分後のことである。
音速を悠に超えるコスモソードのパイロット達は、刹那さえも永遠のように感じてしまうものだ。数十年の寿命を使い切ったかのような思いで、戦いを終えたメドラは息を荒げ、虚空を仰いでいる。
『……どうした、ただ翔ぶだけで精一杯か?』
「……うるさい、ですっ」
決死の覚悟で初陣を潜り抜けた少女に対し、宇宙海賊はならず者らしく辛辣な言葉をぶつける。そんな彼に泣かされることが気に食わず、少女は目尻に貯めた
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