番外編 黒狼の正義
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た。安全な内地で、事務員として細々と暮らしていくつもりだった。
しかし、パイロット不足に喘ぐ軍部は、そんなメドラを見逃してはくれなかったのだ。本来ならコスモソードのパイロットとしては適性がないにも拘らず、「数合わせ」のために転属させられてしまったのである。
わけもわからないままコスモソードに乗せられ、わけもわからないまま戦わされ、わけもわからないまま死んでいく。そんな彼女の受難は、この時代の不条理を凝縮したかのようであった。
あまりに儚く、一瞬にも満たない15年間の人生。その終幕を前に、彼女は走馬灯を見ることさえ叶わぬまま――異形の牙に、
「いやぁあぁあっ――あ!?」
幼い命を摘み取られ、なかった。
闇を裂くように翔ぶ、灼熱の一閃。漆黒の殻に守られた異形の身体を、容易く焼き斬るその剣は――少女に迫る牙を、一瞬のうちに遠ざけてしまう。
レーザー砲によって撃ち抜かれた宇宙生物は、瞬く間に命というしがらみから解放され、天に召されて行く。メドラ機からゆっくりと離れ、星の海を漂う黒の骸が、徐々に少女の視界から消え去っていった。
「えっ……!? あ、れは……」
異形の災厄から少女を救い、魔の物を撃ち倒した熱線。その一撃が来た方角には――こちらを目指して翔び続ける、1機のコスモソードの姿があった。
しかしそれは、星間連合軍のものではない。本来なら純白に塗装されているはずのその機体は、闇のような漆黒に塗りつぶされている。
――それは元々事務員志望であり、パイロットとしての知識にも疎いメドラでさえも、よく知っている姿であった。
星間連合軍から奪ったコスモソードで、あらゆる星を渡り歩く流離いのならず者。彼は人類の矛を私欲の為に操り、各惑星で悪逆の限りを尽くしているのだという。
――「黒狼」の異名を持つ、宇宙海賊セドリック・ハウルド。その悪鬼が操るコスモソードは、漆黒に塗られている。そう、幾度も報じられているのだ。
『おい』
「ひゃいっ!?」
悪名高い賊の機体が、傍まで近づいてきた瞬間。低い男の声が傍受され、メドラは動転の余り奇妙な声を漏らしてしまった。
そんな彼女を気にする様子もなく、宇宙海賊は自分達を取り巻く戦況を一瞥する。すでにコスモソードの数は当初の半数以下まで減少しており、メドラと同じ新兵の多くは、現世から脱しているようであった。
戦況は――素人同然のメドラから見ても明らかなほどに、芳しくない。その光景を改めて目の当たりにした彼女は、状況が切迫している事実に直面し、息を飲む。
一方、ただ静かに戦局を見つめていた宇宙海賊は――コクピットの中で目を細めつつ、メドラの方へと視線を移した。数多の死線を潜り抜けてきたならず者の眼差しが、戦を知っ
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