番外編 嫌いな空、好きな空
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あたし……カリン・マーシャスはこないだまで、空が嫌いだった。政府の偉い役人共が、遠い宇宙からあたし達を見下してるようだから。
――あたし達が住んでいる「惑星ロッコル」は、昔から星間連合政府から「辺境」と軽視され、殆ど放置されている状態だ。
このポロッケタウンも、UI戦争が終わって間もない頃は治安も酷くて、皆荒れに荒れてたのに……政府は、何もしてくれなかった。唯一の軍人だった父さんは歳を押して、無理して頑張ってたのに。
何かの道楽でこの星に来た政府の官僚が、汚いネズミを見るような眼であたし達を見ていた時のことは、今でもはっきり覚えている。この街と星が汚いのは、お前らみたいなのがのさばっているからだ――と、勝手なことばかり口にしていた。
そのくせ、あたしの胸に露骨な視線を注いで誘おうとしていたのだからタチが悪い。確か、思い切りキンタマ蹴り上げてやったんだっけ。逃げ帰る奴らの背中だけは、傑作だった。
――そう。あたしにとって空は、宇宙は、嫌な奴が来る為にある入り口でしかなかった。だから、ずっと嫌いだったんだ。
皆の笑顔を咲かせる為……なんて、頭のおかしなことばかり口にする、底抜けに明るい曲芸飛行士に逢うまでは。
はじめは本当に、ただのお花畑野郎だとしか思っていなかった。今時、子供でも口にしないような綺麗事を、おおっぴらに言い放つ彼のことは、とにかく目障りだった。
でも……彼がそれだけではないということを証明したのは、すぐのことだった。彼は外見からは想像もつかない腕っ節で街の悪漢達を黙らせると、お得意の曲芸飛行で皆を瞬く間に魅了してしまったのだ。
気づけばあたしも、父さんも、用心棒をやっていたアイロスのバカも。皆、争うことも忘れて、彼のフライトを楽しんでいたんだ。
あの日から、あたしの眼に映る空は――いつも、綺麗になった。あんなに嫌いだった空を、今はこんなにも好きになっている。暗く淀んでいたはずの、この眼に広がる大空が。蒼く澄み渡る快晴に変わったのだ。
思えばあたしは、今になってこの故郷を……ようやく好きになれたのかも知れない。大嫌いだったこの星の空も、あたしにとっては「故郷」だったんだから。
「……ねぇ、カケル」
だからあたしは――酔い潰れてカウンターで寝ている、無防備な彼にそっと寄り添い。その頬に、唇を寄せるのだ。
「ありがとね。この街を、好きにさせてくれて」
「皆の笑顔」。ただその為だけに戦い、翔び続けてきた彼が、幸せな夢を見てくれていると願って。
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